2016年6月30日にHMV&BOOKS TOKYOにて行われたサイゾー×ユリイカ合同企画のトークイベント「どうなる日本語ラップ!? ~多角的に検証するムーヴメントの向こう側~」に行ってきました。
およそ2時間に及んだトークの中ではフリースタイルバトルブームを受けて、今後どのように日本語ラップの発展に繋げるかといったトークが展開され、DJ、ラッパー、プレイヤー兼レーベル社長、音楽ライターとしてのそれぞれ立場の生の声が聞けて非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。個人的に幾つか印象に残った発言を備忘録としてひとまず記録しておこうと思います。
参加: DABO / DJ HAZIME / KEN THE 390 / ライター大前至(敬称略)
「10年ぶりぐらいに見ず知らずの若い子から「バトルやりませんか?」と言われる機会が増えた。10年前のときは『8 mile』が公開された時期。普通に彼らとフリースタイルするし付き合うけど、自分に声掛けてくれた若い子を意味もなくディスりたくないから「サイファーしようよ。セッションしようよ。」って言ってる。」DABO
「今までは一般の人が普通に生活していても身近にラッパーの人がいなかったから、ラッパーがどんな人なのか世間的に理解されていなかった。フリースタイルダンジョンが民放で放送されたことでラッパーにもそれぞれキャラクターがあるとわかってもらえた。ヒップホップはラッパーのキャラクターを踏まえた方がより楽しめるものだからそこがまず大きな前進。」KEN THE 390
「日本語ラップにはいろいろなタイプの人間がいて、MCバトルは不良でも優等生でも落ちこぼれでも関係なく、同じ土俵で競い合うことができる。そういうことはバトルのシーンだからあり得る。のび太とジャイアンの喧嘩みたいな。そこが痛快なところだし、わかりやすい部分だと思う。」DABO
「バトルMCは良い音源を出さないとか言われがちだけど、その逆もあって、音源のリリースやライブはするけどバトルは一切しないとか、それぞれのアーティストのスタンスがある。でも、せっかく今バトルがこれだけ盛り上がっているなら、バトルだけで生活出来るラッパーが出てくるようなシステムを整える動きもあっていいんじゃないかなって思いますね。現に日本のダンスバトル界では順位によって賞金が分配されるシステムが出来ている。MCバトルでもそれが出来るようになる為には、当然もっと多くの人を集めなければならないし、スポンサーも必要。もちろんプロ競技として賞金が懸かっているからにはジャッジの公平性をどうするか?っていう問題もある。クリアしなければいけないことが山ほどあるので言うほど簡単なことではないですけどね。」KEN THE 390
「フリースタイルダンジョンは毎週録画して観ているよ。そこから一気に名を上げたCHICO CARLITOに関しては、それまで名前は見たことあったけど実際にどんなラップするのか知らなかった。初めて彼のラップを聴いて、イケてると思ったし、俺の次の作品にも参加して欲しいと思った。」DJ HAZIME
「ブームを実感したのは2016年にR-指定とDJ松永のユニット・Creepy NutsのCDが発売されて、それが何ヶ月も売れ続けるという状況を目の当たりにしたとき。ここ4ヶ月くらいで急激にブームになったと感じる。自分たちの想像以上のスピードでラップが広く認知されていっている。だけどブームである以上、必ず終わりは来る。どこまで定着するかは結局、僕ら次第。ただブームが去ったからと言って底の時代より悪くなることは絶対にない。」KEN THE 390
「今までDJやってきた中でRHYMESTERの「B-BOYイズム」以上にどの現場で掛けても盛り上がる日本語ラップの曲はなかった。リリース当時はフロアが「B-BOYイズム」待ち、みたいな状況が1年くらい続いていた。日本語ラップはちょこちょこ掛けてはいるけど、そういうアンセム的な曲が今の時代にもう少しあればDJも日本語ラップを掛けやすくなる。自分はUSモノと日本語ラップを混ぜて掛けるスタイルだけど、せっかく日本で、東京でやっているのでDJプレイで日本語ラップを流行らせるっていうのが理想。」DJ HAZIME
「スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」なんて今の若い女の子でさえ知ってたりする。そういう流行った曲があるから成り立っているのかなって。自分にもライブで演って絶対に盛り上がる曲が5曲ぐらいある。そういう意味でヒット曲は大事だし、好きな曲って人生にも入り込みますよね。10年前にKREVAが『愛・自分博』でオリコン1位になったとき、めちゃくちゃ嬉しかった。だからフリースタイルだけではなく楽曲にも注目が集まるといいなって。」DABO
「僕がクラブ行き始めた時期のクラブではUSの曲ばかり流れていた中で、N.M.U.とかDABOさんの「拍手喝采 (Remix)」が掛かった瞬間にその場が「うわーー!」って皆が盛り上がってたし、「これがヒット曲なんだな」というのを自分は体感していたので、それこそハヂメさんが回してるようなHARLEMとかでもドカーンと盛り上がるようなヒットを狙う姿勢も大事ですよね。テレビの音楽番組で演れるような曲をあらかじめ想定して作るとかあってもいいだろうし。もし、自分の中でそういうヴィジョンがあって、それを心から望んでいるんだったら今までのように小振りでヒットを狙うのではなく、大振りになれるように意識改革しながら制作が出来ればいいんじゃないかなと思いますね。そうなると、もちろん失敗する可能性もあるけど、ホームランも狙っていく姿勢は大事だと思う。」KEN THE 390
「KENはMCバトルで生活出来るラッパーが今後出てきてもいいんじゃないか?って話をしていたけど、もちろんそれを否定するつもりは全然ないけど、個人的には今のフリースタイルバトルのブームで名を上げた人にこそヒット曲を出して欲しい気持ちがある。じゃないとその先がキツイと思うから。そういう人達が作る “誰もが認める” クラシックアルバムを待ち望んでる。」DJ HAZIME
続いて最後に行われた質疑応答では、フリースタイルダンジョンのライブコーナーで観たいラッパー、メディアでのヒップホップの扱われ方に関する質問、KOHHの売り出され方について学ぶべきところはあるか、3人が最近聞いている楽曲、マイクリレーに関する質問がありました。
Q. フリースタイルダンジョンのライブで今後観たいラッパーは誰?
KEN THE 390「KOHH。テレビでどう映るのか楽しみだし、初めて見た視聴者のリアクションも気になる。」
DABO「KOHH、ANARCHY。…あとK-BOMB。」
DJ HAZIME「俺はZeebra本人のライブが観たいかな。」
大前「僕はDABOのライブが観てみたい。」
Q. 最近のヒップホップのメディアでの取り扱われ方について、歪められてしまっているのでは?
KEN THE 390「正露丸糖衣Aみたいなもので、中身は変わらずに外側をいかに飲み込みやすくするか、という意味でメディアからの提案を柔軟に受け止めるようにしている。」
DABO「大丈夫。今までの蓄積があって成り立っているのがこの文化だから、そう簡単に揺らぐことはない。」
DJ HAZIME「それこそ昔は “村社会” なんて言われていたけど今の日本語ラップは細分化された細かいシーンが集合した “共和国” みたいなもので。そこから出てきた人達は、外の世界に出てチャレンジしてちょっと失敗したとしても、そんじょそこらじゃ揺るがない帰って来れる場所はある。でも最初から “共和国” の外にいる人、例えば「DJみそしるとMCごはん」みたいな人には帰ってこれる場所はないけど、あくまで “それはそれ” というスタンスで面白いなと思って見ている。」
Q. KOHHの売り出され方について学ぶべきところはある?
DABO「KOHHが新しいと思うのはファッションを持ち込んだところ。日本で最初のファッショニスタだと思う。最近だとKOHHのスタイルを真似てしまうラッパーの病気が蔓延しているらしい。」
KEN THE 390「常にアンテナを張っているからこそ、USと同じレベルのことを後追いではなく同じリリースタイミングで出来ている。KOHH君自体、素晴らしいアーティストだけど、それを支える周りのスタッフも素晴らしいと思う。チーム一丸となって動いているという点で参考に出来る部分はあるかもしれない。」
Q. 最近よく聴いている曲は?
DABO「トラビス・スコットを聴いてます。普通ですいません。」
KEN THE 390「邦楽で「やまびこよ〜」って歌っている人、凄い良いんですよ。ちょっと名前が出てこないんですけど。」→NakamuraEmi『YAMABIKO』
DJ HAZIME「自分は日本語ラップからUSヒップホップからレゲエ、R&B、EDMなんでも聴いているので最近の1曲ってのは出せません。すいません。」
さて、記事タイトルを見てここまで辿りついた方には大変お待たせしました。ここからはトークイベントの最後の質問をご紹介します。トークイベントももうすぐ終わるというタイミングで行われた最後の質問です。わくわくしながらやり取りを聞いてしまいました。
今、証言をやるならどんなメンバー?
参加: DABO / DJ HAZIME / KEN THE 390 / ライター大前至(敬称略)
質問: 御三方はこれまで多くのマイクリレーの制作に携わってこられたと思うのですが、これまでの日本語ラップ史の中では「証言」、「I REP」、「PROPS」など、時代を彩るマイクリレー作品があったと思います。そんな中、さんピンCAMP20周年の今、このタイミングで「証言」のようなマイクリレーを作るとしたらどういうメンバーが理想ですか?
大前: それは結構いい質問だな(笑)どう?なかなか難しいと思うけど。
(DABO、DJ HAZIME、KEN THE 390考える。)
…
…
…
…
…
…
DABO: …どうしよう。
(会場笑い)
DJ HAZIME: 俺イケるかも。
大前: では、代表して。
DJ HAZIME: え、代表しちゃう? いや、俺ならね。 選ぶとしたら、「KOHH」、「ANARCHY」、「AKLO」。えー、とりあえず3人か…。8人?
KEN THE 390: 一応、”セブン” までじゃないですか?
DJ HAZIME: あ、7人か。あー、そうだなあ…。あと残り考えてよ。
KEN THE 390: …パッと「KOHH」、「AKLO」、「SALU」、「ANARCHY」がドドドドッて浮かびますね。
DJ HAZIME: あっ、「SALU」! SALU入れる?
KEN THE 390: はい、自分は入ってましたね。 とは言え、そんなの僕がどうにか出来る話ではないですけど(笑)
DABO: 「般若」入れたいね。
KEN THE 390: あ、「般若」さん。
DJ HAZIME: ああ、「般若」は入るね。
DABO: …そこに「KREVA」も入れちゃったりとかしてね。
KEN THE 390: あー。
DJ HAZIME: ああ悪くないかもね。
大前: そしたら凄いことになりそうだよね(笑)
KEN THE 390: そしたら「MACCHO」さんも、やっぱり。
DABO: ああ、入れたいね。
DJ HAZIME: 「DABO」は入れる?どうする?
大前: でも、ちょっと平均年齢上がっちゃう気がする。
DABO: やかましいわ!(笑)
(会場笑い)
DJ HAZIME: じゃあ、どうしようか?
KEN THE 390: でも、今そういうのあったら凄い売れそうですよね。
DABO: そうだよねー。(DJ HAZIMEに向かって)YOUやっちゃいなよ。
大前: (DJ HAZIMEに向かって)やっちゃいなよ。
DABO: やっちゃいなよ、人の金使ってやっちゃいなよ。
KEN THE 390: (笑)
(会場笑い)
DJ HAZIME: ああいいね。じゃあちょっとそれ、やってみます。
おおお(会場拍手)
DABO: いい〆だなあ。
大前: ありがとうございます、良い質問。ではそろそろ時間が来てしまったのでこの辺で終わりにしたいと思います。 楽しんで頂けたら幸いです。どうもありがとうございましたー。
(会場拍手)
という感じです。いかがだったでしょうか? 個人的には上記で名前が挙がらなかった中では(オリジナル「証言」が持つ、テーマ、メッセージ性は一旦置いといて “オールスター” マイクリレーとしての考えた場合)、フリースタイルダンジョンのモンスターとして活躍中で、ミニアルバム「たりないふたり」がロングヒットを記録しているCreepy Nutsの「R-指定」や、さんピン世代でありながら今もなお現役で活躍しているレジェンドの現在進行形・RHYMESTERの「Mummy-D」、AAAとして活動しながらも平行してラッパー活動を地道に続けてきた結果、2016年1月に発表された傑作アルバム「カタルシス」も記憶に新しい「SKY-HI」にも参加して欲しいと思いました。兎にも角にもイベントの最後に日本語ラップ有数のマイクリレー制作陣による豪華な企画会議?みたいなものがチラッと見れたような気がしてとても幸せでした。
最後に余談ですが(…とは言いつつかなりの文量。完全に自己満足で書きます。)、KREVAから日本語ラップを聴き始めた一ヘッズによる「証言」+ 2010年代以降のDABO、DJ HAZIME、KEN THE 390それぞれに関連したマイクリレー楽曲を幾つかピックアップしてご紹介していきたいと思います。ここで挙げる楽曲は「証言」以外はリアルタイムで聴いてきた曲です。拙い文章ではございますが是非ご覧になって頂けると嬉しいです。(ここには掲載しませんが、2000年代にもカッコいいマイクリレーは多くあります。ですが私自身、リアルタイムで体感していないため割愛します。説明が抜け落ちているとか、明らかに間違っている箇所はご指摘くださると非常に助かります。)それではどうぞ。
証言 [1995]
RINO LATINA II, YOU THE ROCK★, G.K.MARYAN, ZEEBRA, TWIGY, GAMA, DEV LARGE [Prod. by DJ YAS]
RINO LATINA II、DJ YASから成る1MC&1DJのユニットLAMP EYEが1995年に発表した楽曲。客演にYOU THE ROCK、G.K.Maryan、Zeebra、TwiGy、GAMA、2015年に亡くなられたDEV LARGEなど当時のハードコア日本語ラップのそうそうたる面々が参加。95年に発売されたアナログは即プレミア化。渋谷宇田川町にあったレコード店シスコでは争奪戦が巻き起こり、あまりに人気が出すぎたために「証言」狩りが発生したという逸話も残っています。
レコード盤が発売された翌1996年に行われた伝説のヒップホップ野外イベント・さんピンCAMPではTWIGYを除くラッパー6人 + UZIというメンバーで「証言」が披露されました。2008年には当時活動20周年を迎えたZeebraの武道館公演でD.Lを除くメンバーで披露されるなど、メンバーが揃う場面では常にヘッズ達を期待させる楽曲でした。言わずもがな日本語ラップの歴史を語る上で外すことの出来ないマイクリレーです。
私個人としては00年代後半に日本語ラップを聴き始めた当初、周りのヘッズからこぞって所謂 “さんピン世代” の楽曲を薦められましたが、どうも自分の中で音楽として上手く消化出来ないことに対してコンプレックスを感じていた時期がありました。その後、ラッパー達のインタビューや曲のリリックに登場する “さんピン世代” の功績、偉大さを徐々に知るようになっていくのですが、そんな中で「証言」という曲に出会い、日本語ラップのマイクリレーのカッコ良さを知ると同時に、日本語ラップの全盛期は90年代に過ぎ去ってしまったのではないか…?、もしかしたら今後これ以上にカッコ良い日本語ラップのマイクリレーが聴けないんじゃないか…?という寂しさを感じたのを覚えています。(その寂しさはこの後に記述する楽曲群や、2010年にR-RATED RECORDSが仕掛けた「24 BARS TO KILL」などであっさり解消されましたが…(笑))
2016年7月3日に放送されたフリースタイルダンジョンAbemaTV特番モンスターズウォーで最後に行われた参加者全員総出のサイファーの終盤に掛かった「証言」のビートに合わせてUSU a.k.a SQUEZが亡くなったDEV LARGEヴァースをとっさの判断でカバーし、周りのラッパー達もそれに呼応して積極的に被せていたシーンには思わず笑顔になってしまいました。ラッパーに対して感じる魅力のひとつはこういう部分(ラッパー達の関係性や物語性)だよな、と。ラップそのものやステージ上での立ちふるまいでその人の持つ哲学だったり、生き様が垣間見える瞬間が好きだな、と改めて思いました。「証言」は間違いなく今後も歌い継がれていく曲のひとつでしょう。
Music Video
RINO & DJ YAS「LAMP EYE FLAVA」でアナログヴァージョンがCD化。
「証言」も披露された伝説の日本語ラップイベント「さんピンCAMP」の映像作品。「MVもろくになかったあの時代にイベントが丸ごとLIVE映像としてアーカイブされたことで、全国のヘッズ達に日本語ラップの盛り上がりを伝えることができた。」と、のちにRHYMESTER・宇多丸が回想していました。
Disc 3に「証言」CD ver.収録 / Disc 1には武道館ライブでも披露された「証言」を含む日本語ラップクラシック10曲が8小節ずつ大胆にサンプリングされた「Jackin’ 4 Beats」が収録されているZeebraのベスト盤!
ONCE AGAIN (Remix) [2009-2010]
RHYMESTER feat. DABO, TWIGY, Zeebra [Prod. by BACHLOGIC]
私が日本語ラップを聴き始めた時期が2008年頃なのでそのときにはRHYMESTERは活動休止中でした(RHYMESTERは2007年の武道館公演以来、活動休止中)。そして2009年に先人達の凄さを理解した上で「証言」を聴いて謎の喪失感を感じていた中で、水面下で音楽活動再開していたRHYMESTERが初めて外部のプロデューサー・BACHLOGICを招いたシングル曲・ONCE AGAINが発表されます。レジェンドのリアルタイムなぶちかましっぷりに興奮しました。復活第一弾にここまでのクラシック曲を産みだしてくれるとは思っていませんでした。
書いている途中に思い出したのですが当時、日本語ラップ.COMというサイト(benzeezyというハンドルネームの方が管理・運営し、2014年に惜しまれつつ閉鎖した日本語ラップのアーカイブサイト「JPRAP.COM」の前身サイト)が出来立て間もない時期で、それこそDABOによるUSのビートジャック企画「NY SHIT」のパロディ的なビートジャック企画「TOKYO SHIT」がきっかけとなり徐々に国内でも広がりを見せつつあった他人の楽曲のインストを使用したRemixが、日本語ラップ業界全体でムーブメントになったのも、この曲が最初だった気がします。そんな状況の中、2010年の発表されたRHYMESTERの復活後初のアルバム「マニフェスト」の初回盤限定収録曲として収録されたのがDABO、TWIGY、Zeebraを加えたこのRemixなのです。
日本語ラップ界が当時、薄っすらと感じていた未来への不安を、ベテラン、若手関係なく「日本語ラップ / HIPHOP」という共通したテーマでラップすることが出来る、そんなロマンが詰まってるんです。はっきり言ってこの楽曲目当てにCDやLIVE DVDを買って損はありません。映像に収められているライブは間違いなく日本語ラップの歴史に残る瞬間ですし、とにかくその映像自体が凄くカッコいい。おすすめです。CDアルバム、LIVE DVDをお求めの際は “必ず” <初回盤> をご購入ください。
I REP [2010]
DABO, ANARCHY, KREVA [Prod. by DJ HAZIME / Music by BACHLOGIC]
2010年に発表された楽曲。DJ HAZIMEプロデュースの元、ハードコアなアンダーグランドシーンで絶大な支持を得ていたANARCHYと、オーバーグラウンドな日本の音楽シーンで活躍するKREVAが参加し、いわば日本語ラップの端と端の2人を繋ぐ存在としてDJ HAZIMEの盟友・DABOが参加した楽曲。音楽はBACHLOGICが担当。
KREVAという入り口から日本語ラップを聴き始めた身としては、同業者によるKREVAに対する執拗なディスに何度も苦しめられてきました(とはいえディスをラップにする、曲にする時点で “エンターテイメント” なので、そこまでシリアスには受け止めてはいませんでしたが…(笑))。ですが、やはりヘッズとして腹が立つことや悔しい思いをすることが多かったです。そんな鬱屈した気持ちを解消してくれたのがまさにこの楽曲でした。これが私が日本語ラップを通じて得た最大の『カタルシス』(←最近覚えた言葉)ってやつだと思います。今後もずーっと聴き続ける楽曲かもしれません。それくらい大好きな楽曲です。
908 FESTIVAL 2012 Blu-ray & DVD Trailer
CRITICAL POINT [2011]
SKY-HI feat. TARO SOUL & KEN THE 390 [Prod. by SHIMI] #FLOATINLAB
2016年3月に自身のブログにて「国民的な存在になる」と宣言したSKY-HIが2011年に発表した楽曲。日本を代表するヒップホップサイトAmebreakにSKY-HI自身が企画を持ち込み実現したラッパー達とのコラボレーション制作風景を収める映像企画『FLOATIN’LAB』の第二弾楽曲。実はこの企画はDABOが2006年に企画したレーベルコンピ『B.M.W』というコラボレーション企画から着想を得た、とのちにSKY-HIはAmebreakインタビューで語っています。彼はこの『FLOATIN’LAB』という企画を通じて “SKY-HI” という存在に対して斜に構えていたヘッズや同業者の見方を徐々に自分の実力でひっくり返していきます。見ていてとても痛快な活躍ぶりでした。
当時はまだまだ「アイドルがヒップホップをやるなんて、、」「どうせAAAっしょ?」そんな空気が少なからずあったように思います。そんな状況でクラブに頻繁に足を運びバトルへの参加や、積極的に同業者とフリースタイルで交流し腕を磨くなど努力を怠らなかったSKY-HI。そんな中、非公式RemixをYouTubeにアップしていたことがきっかけで最初に客演オファーという形で手を差し伸べたのがKEN THE 390です。2011年2月に発表されたKEN THE 390「What’s Generation」がラッパー・SKY-HIとしての初の公式音源です。そちらもチェックして損はありません。
BEATS&RHYME [2011]
MACCHO, NORIKIYO, 般若, DABO [Prod. by DJ HAZIME / Music by DJ WATARAI]
制作陣の並びを見るだけで凄い曲だとわかりますね。この楽曲は2010年の「I REP」の成功を受けて、DJ HAZIMEとManhattan Recordsが仕掛けるマイクリレーの第二弾として発表されました。
個人的にはDABOによる “I am 日本語ラップ” という言葉が印象的で、リアルタイムで追うことが出来なかった00年代のNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDでの活動や、ソロヒップホップアーティストとしてUSの名門レーベルDef Jam Japanとの契約などDABO自身の輝かしい時代を振り替えさせられて寂しい気持ちになったのを覚えています。「おい、DABOよ。今の日本語ラップシーンはやっと面白くなってきた、けど世間的には昔と比べると全然盛り上がってないじゃん。そんな状況で自分のことを “日本語ラップ” だなんて言わないでくれよ!!!」と当時の私は心のなかで叫んでいました。この時期から私自身のDABOに対する長きに渡る反抗期が始まります(笑)
Music Video
ガッデム!! (TOKYO ver. / OSAKA ver.) [2011]
KEN THE 390 feat. Cherry Brown, 晋平太, AKLO [Prod. DJ WATARAI] (TOKYO ver.)
KEN THE 390 feat. MINT, R-指定, ERONE [Prod. DJ WATARAI] (OSAKA ver.)
KEN THE 390主催のライブイベント・超ライブの出演メンバーで構成されたマイクリレー楽曲です。曲の拡散が結果的にライブへのプロモーションになるという計算されたマイクリレーで、且つバラエティに富んだ人選を集めたTOKYO、OSAKAそれぞれのMVを同時にTwitter上で発表することで意図的にバズを狙いに行くというフレッシュさがありました。
私的な見解ですが、2011年2月に発売された『ONE』以降、当時まだ珍しかった昼間の日本語ラップのライブイベント・超ライブを定期的に開催したり、自身がプロデュースするマイクリレーを通じて日本語ラップ全体を盛り上げようという意識が強く感じられました。アーティストはそれぞれ自分の理想を当然持って活動していると思いますが、KEN THE 390はプロデューサーとしての視点を持ちあわせていて、「行ける!」と思った時にアイディアを行動に移す実行力が群を抜いていると思います。
偉そうな批評家目線で言ってしまうと、KEN THE 390を “ヒップホップ” アーティストとして一目置くようになったのは確かこの頃です。そこは今でも変わりありません。
TOKYO ver. Music Video
OSAKA ver. Music Video
PROPS [2012]
KEN THE 390, LB, HI-SO, KLOOZ, サイプレス上野, SKY-HI, KREVA [Prod. by KREVA]
KREVAが発したTwitter上での呼びかけに呼応したラッパー達が集まり制作された楽曲。当初はKREVAのシングル曲「OH YEAH」の初回購入特典でしたが、現在はiTunesでも購入できます。
タイトルの「PROPS(プロップス)」とは支持、評価という意味で、それこそ先ほどのトークショーの質問の中で名前が挙がったラッパー達は同業者からの支持を得ている、つまりプロップスを持っているラッパー達と言えます。
また、2013年に行われた「オトナの!FES」ではフルメンバー+バンド演奏、更に日本語ラップのパイオニアであるいとうせいこうが参加したスペシャル版が実現(某動画配信サイトで見れるようです)。RHYMESTERの宇多丸が興奮気味に賞賛していたのが印象的です。Twitter発信という意味でも、メンバーの振れ幅という意味でも2010年代の日本語ラップの “マイクリレー” を語る上で外せない楽曲のひとつと言えるでしょう。
908 FESTIVAL 2012 Blu-ray & DVD Trailer
Shock [2014]
KEN THE 390 feat. SKY-HI, KREVA, Mummy-D [Prod. by KREVA]
「What’s Generation」や「ガッデム!!」、「Lego!!」「Chase」などKEN THE 390が仕掛けてきたマイクリレーは数多くありますが、 このメンツを見れば “KEN THE 390自身がプロデュースする” キャリア最強のマイクリレー楽曲だというのは一目瞭然です。『#ケンザワンマン 2014 DVD』に収録されている1曲目ど頭からの #いきなりショック に至るまでのステージ開演前に緊張感がありながらも談笑する彼らのスタンバイ風景はファンにはたまらない必見映像です。
#ケンザワンマン 2014.10.17 EBISU LIQUIDROOM [DVD]
東京弐拾伍時 [2015]
東京弐拾伍時 / DABO, MACKA-CHIN、SUIKEN、S-WORD [Prod. by DJ HAZIME / Music by BACHLOGIC]
DABOが所属している8人組クルー・NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(現在活動休止中)から派生したDABO、MACKA-CHIN、SUIKEN、S-WORDからなるユニット・東京弐拾伍時の楽曲。DJ HAZIMEプロデュースの元、BACHLOGICによるニトロを意識した東京感溢れるドープなサウンド。そのビートに悠然と乗る4人のラップは2000年代に活躍したニトロを知るヘッズ達を歓喜させると同時にリアルタイムで追えていなかった私のような人間をも虜にしました。凄いです。
MVにはAKLO、SALU、SIMON、B.D.、BIGZAM、MUROがカメオ出演しています。監督は日本語ラップ界からプロップスを得ているSITE(GhettoHollywood)。この楽曲で、私自身のDABOに対する反抗期は終わりを告げました(笑)
Music Video
真っ向勝負 [2016]
KEN THE 390 feat. MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻,KOPERU,CHICO CARLITO,晋平太
さて、2010年代のDABO、DJ HAZIME、KEN THE 390のマイクリレーを語って来たわけですが、2016年上半期が過ぎ下半期に突入した今の段階で最後に締めるならこの曲になるでしょう。フリースタイルバトルから日本語ラップが好きになった方には、もはや説明不要かもしれません。日本語ラップ屈指のマイクリレーの仕掛け人・KEN THE 390、高校生RAP選手権2連覇を果たしたニガリ a.k.a. 赤い稲妻、KEN THE 390が才能に惚れ込み自身のレーベル・DREAM BOYに招いたKOPERU、フリースタイルダンジョンで大活躍し、その後UMBチャンピオンになったCHICO CARRITO、2010年代のMCバトルを牽引してきた重要人物のひとり・晋平太を招いた、まさに今のフリースタイルバトルブームを象徴するような楽曲「真っ向勝負」。
因みに楽曲のタイトルである「真っ向勝負」はフリースタイルダンジョン Rec 2の “焚巻 vs 般若” 戦後のKEN THE 390自身の解説コメントで出てきたワードです。こうしたちょっとした発見もリアルタイムで追うからこそ気付くことが出来るものだと思います。
現在、ブームの渦の中心であるフリースタイルダンジョンや、それを取り巻くプレイヤー達が仕掛ける動きから目が離せませんね。これからも日本のヒップホップを好きで居続けられる限り、楽しんでいきましょう!ということで自分なりの2010年代日本語ラップマイクリレー史(DABO、DJ HAZIME、KEN THE 390編)を終わります。結構な文量ですが、最後までお読み頂きありがとうございましたー!
最後はANARCHY & DJ IZOHのAWA CMで〆ます!
目に焼き付いた団地
路地裏に公園
十五の俺に火をつけた証言
俺は俺のやり方で挑戦
俺は俺のやり方で証明
(登録していないのではっきりとは言えないですが、この記事で紹介したマイクリレー楽曲ももしかしたら聴けるかもかもしれません)