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矛先はKANDYTOWN?FLY BOY RECORDS? SKY-HI×SALU/「Purple Haze」を超個人的に解釈してみた

SKY-HI×SALU のアルバム「Say Hello to My Minions」が発売されて約1ヶ月が経ちました。2人ともかなり踏み込んだ内容をラップしているにもかかわらず、一部でしか話題になっていないことを考えると、エセ評論家の批評が足りないのではないかな?と思いました。どうせ書くなら今しかないかな、と思ったので久しぶりにブログ記事と向き合おうと思いました。

今回言いたいことはズバリ、タイトル通りなのですが、なぜそう思ったのか自分なりに掘り下げて解説していきたいと思います。

まずは各自、楽曲 “Purple Haze”(出来ればアルバム「Say Hello to My Minions」全体)を聴いてみてください。

解説に至るまで、馴染みのない方の為に予備知識の説明をしてるので、必要ない方はリンクを設置しておくので読み飛ばしてください。

  1. なぜディスるのか?
  2. verse 1: SALU
  3. verse 2: SKY-HI
  4. 総括
  5. おまけ: KANDYTOWN / FLY BOY RECORDS 関連作

一聴しただけで2人とも攻撃的なラップをしていることがわかるかと思います。ディスといえば聞こえは悪いですが、SALU と SKY-HI からのキツめのエールだと僕は捉えています。リリックを読み解いていくと日本語ラップという括りの中で特にヒップホップと呼ばれている人達に向けてラップしている内容が多いと思います。

なぜディスる?

馴染みのない方からしたら曲を使って他人をディスることは野蛮なイメージかもしれませんが、ヒップホップの世界では(に限らず一般社会でも学校や、会社、家庭において、先生、上司、配偶者本人がいないところで愚痴をこぼしてしまう場合、意外と口が悪くなってしまうと思います。とはいえ当然、ヒップホップではディスる意味や理由が異なりますが…)、ごく自然で当たり前の行為です。流行しているフリースタイルバトルを観ればわかりやすいと思いますが、切磋琢磨して競い合うことがエンターテイメントとして成立するのがヒップホップです。もちろん中にはバトルの勝ち負けと関係ないレベルまで自分を高める人もいれば、はじめからそうした土俵で勝負をしない人もいますが、基本的には相手より自分の方がすごいと思わせることが善しとされる文化なのは間違いありません。

フリースタイルバトルと違い、曲を使ったバトルには細かいルールはありません(そこがとっつきにくい部分なのかもしれませんが…)。基本原理は一緒で、聴いているリスナーに「すげー!カッコいい!」と思わせら勝ちです。また、お互いに敵対関係が認められる場合はヒップホップ用語でビーフ(BEEF)と呼びます。この記事で解説するケースでは今の段階では相応しいと思わないのでビーフという言葉は一度も使っていませんが、一応、なぜビーフと呼ぶのかを説明しておきますと昔、アメリカのハンバーガー専門店 ウェンディーズのCMで、自社のハンバーガーがいかに優れているかを示すために、ライバル関係にあるマクドナルドのビーフパティが小さいことを揶揄したセリフとして「where is beef?」と言ったことが由来だそうです。

もう一度、念のために言っておきますが今回のケースは今のところビーフではありません。

タイトルや本文に実名を出していますが、個人の解釈でリリックを解説することが目的なので、ビーフを期待して不必要に煽ることはなるべくしないように気をつけます。

“サブカルブーム フリースタイルブーム でHIPHOP自体の季節は未だに冬”

インタビューで SKY-HI が語っていましたが、”ここ最近カッコいいヒップホップの作品が出ていないことに危機感を感じていた” からこそアルバム「Say Hello to My Minions」のような作品が出来たといいます。この作品はシーンの中でアウトローを自称する2人が、カッコいいヒップホップを作りエンターテインしながら、日本のシーンに対して問題提起している作品です。個人的には2人をアウトローだとは思っていませんが、この事実だけでも胸が熱くなります。

ということでフリースタイルバトルのおもしろさが浸透した今こそ、曲でのバトルを入り口にカルチャーとしてのヒップホップに興味を持つ人が増えればいいな、という気持ちで解説します。

verse 1: SALU → KANDYTOWN?

この曲の SALU のバース全体を一聴した段階で「これは KANDYTOWN に向けてラップしてる?」と感じてしまいました。自分の感性に疑いを持ちつつも改めて歌詞カードを確認してみても、やはりそう思ってしまいました。まずはこの曲で一番耳に残るラインから解説します。

“ほら いつも通り Oh 何杯目の紅茶 味しない薄い Flow だな”

このラインでは誰かのフロウをそのまま真似したり使いまわされたトピックを扱うラッパーを、”薄い / 二番煎じ” の紅茶に例えています。これ自体は不特定多数に当てはまるディスですが、ここで注目したいのは比喩として “紅茶” が出てきた点です。実はこの “紅茶” が KANDYTOWN を示唆しています。理由はのちほど説明します。

ご存じの方には説明するまでもありませんが、KANDYTOWN とは東京世田谷のヒップホップ・クルー。川崎の BADHOP や、東京の YENTOWN と YENTOWN を抜けた KiLLa などと並び、今注目を浴びている若手クルーのひとつで、彼らは音楽だけではなくファッションを含めてクールで洗練されたイメージで人気があります。

KANDYTOWN のインタビューによると、名前の由来は、山下達郎の楽曲「CANDY」から(※これはあくまで一説です。メンバー全員が正確な由来を把握している訳ではないようです)で、キャンディ(Candy)の頭文字を C から K に変えているのは、彼らの地元・遊び場である喜多見、駒沢、経堂がすべて頭文字 K の街 = K-TOWN だから、それで KANDYTOWN を名乗っているようです。

日本でキャンディというと一般的に “飴” ですが(USでは砂糖を使用した甘いお菓子 [但し “粉” で作られるものを除く] 全般を CANDY というようです)一方で、綴りが KANDY のキャンディの場合は、スリランカのキャンディ地方、キャンディ地方で作られる “紅茶” を指します。

以上のことを踏まえて SALU のラップに出てきた “紅茶” はキャンディなのでは?と思った次第です。このバースはほぼ “紅茶” が言いたかっただけ、とラジオで SALU は発言していましたし、フロウでも強調されていて耳に残ります。リリックの内容から判断しても 紅茶=KANDYTOWN 説はあながち間違ってはいないと思っています。更にリリックを解説していきます。

“クールなキャラが君の売りってか? なんの味もさ 別にしないじゃん”

メンバーの中で特にリリックに当てはまると思ったのは IO です。2016年2月に発売された IO の1stアルバム「Soul Long」はやや過剰な宣伝が目につきました。彼の “ラップ” そのものよりもルックスやファッション、アルバムに集った豪華なトラック陣を売り文句に宣伝されていた気がします。作品そのものは周囲の期待に物怖じせず東京のオシャレな若者らしい落ち着いたテンションで余裕のあるラップをしていました。これは個人の感想ですが、良くも悪くもラップの内容が耳に残らないので、BGMとしてたまに聴こうかな?といった感じの作品です。SALU が指摘する “味がない” という表現にも当てはまりますね。

所属レーベルである BCDMG や業界から手厚くサポートを受けていた IO が置かれていた状況は、おそらく2012年3月の1stアルバム「In My Shoes」リリース時の SALU と似たような環境だったのでは?と想像できます。当時の SALU も新人とは思えないほどさまざまな媒体に登場し、落ち着いて受け答えしていたのがとても印象的でした。ファッションのセンスの良さやルックスが優れている点も似ています。

ただし、2人の大きな違いとして SALU の場合は、デビュー時から良くも悪くも “ラップ” そのものを賛否両論で評価されていたイメージがあります。その理由は2つあって、1つは、当時としてはまだ少数派で珍しかった日本語の発音を崩して英語風に聴こえるようなフロウだったこと、そしてもう1つは、プロデューサーの BACHLOGIC が、SALU のデモ音源を聴いてレーベルを立ち上げたという逸話が影響していたと思います。

このような注目されている状況を追い風に、自分自身の実力をシーンに見せつけたからこそ、そして反省を常にフィードバックして来たからこそ SALU は今でも第一線で活躍しているのだと思います。(これは SALU に限らず他のラッパー、他ジャンルで活躍しているアーティストもそうだと思います。)

だからこそ(勝手な想像ですが)同業者の厳しい目線でみて納得のいく実力を見せていない? IO 、並びに KANDYTOWN に物申したかったのではないでしょうか。彼らと SALU を比べるのは酷かもしれないですが、思わず言いたいことを言ってしまうほど、下の世代に期待しているのだと思います。これは悪意のあるディスではなく、かといって先輩から若手へのアドバイスでもなく、周囲から担がれる <期待の若手ラッパー> という立場を身をもって知っている人間として、 <これからの日本のヒップホップを盛り上げる仲間> として、愛情の裏返し的なディスをしたのでは?と勝手に捉えています。

“俺の Swag なら君の毛布 君の心配すらありがた迷惑さ Boy”

これは2012年の作品 “HEAT OVER HERE (REMIX)” に出てくる自身のパンチライン “ラボで震えているよ お前の Swag で暖めてくれよ” と意味が繋がっています。当時の SALU はレーベルメイトの AKLO と共に “SWAG系ラッパー” などと呼ばれていて、それを逆手に取ったような表現でした。

スワッグ(SWAG)とは自分自身や、自分自身のセンス、身の回りのものの魅力を人に自慢するときに使われる言葉で、ヒップホップ特有のセルフボースティング(自己賛美)と呼ばれる表現でよく使われる言葉です。 “HEAT OVER HERE (REMIX)” のときは、お前のボースティングで俺の気持ちをアツくしてくれ、というメッセージでしたが、今回の “Purple Haze” では逆に俺のボースティングでお前をアツくさせてやるぜ、という意味で使われていますね。

さらにマニアックに掘り下げると2012年当時、ツイッターで話題になっていたラップファンによるBBQサークル “Majikichi Crew(マジキチクルー)”のメンバーの方々を中心に SALU の “ラボで震えているよ お前の Swag で暖めてくれよ” のラインを受けて SWAG=毛布 と解釈するネタがごく狭い範囲で流行っていました。当時を知る人が聴けば今回の “俺の Swag なら 君の毛布” は、4年越しのアンサーとも受け取れるかもしれません(笑)
2012年のつぶやき↓


2016年のつぶやき↓

長くなってしまいましたが SALU のバースはこんなところでしょうか。

ちなみに比喩で使われた紅茶の <キャンディ> は飲みやすいマイルドな味が特徴で、少し味に物足りなさを感じる人にはハーブやスパイスを加えたアレンジティーがおすすめの紅茶らしいです。”Purple Haze” の辛口でスパイスの効いたリリックにぴったりの比喩表現ですよね。

そういう意味で KANDYTOWN メンバーのソロ作 YOUNG JUJU「juzzy 92’」はとても良いと思いました。当初の発売予定より2〜3ヶ月遅れてのリリースだったようですが、逆にタイミングも良かったのではないでしょうか。↓

蛇足ですが、他にも SALU は下の世代のラッパーに言及しています。それは6曲目 “H.Y.P.E.”。

“みんな違ってみんないいなら そこに居ろよ 同じ言葉でも意味が違う俺とお前の外仕事”

この曲で SALU は Creepy Nuts “みんなちがって、みんないい。” で R-指定 が演じた4人目のラッパー(SALUに似てる?)のバースに対して返答しています。

ただし、R-指定 はラジオ出演時に「”みんな〜” で演じたラッパーは自分がかつてなりたかった人たち」とディスを否定していましたし、SALU も映像を含めて作品内で自分が茶化されたことに対して、同じく作品で返しただけなので2人ともこれ以上やり合う理由はないと思います。

とはいえ、R-指定 vs SALU という組み合わせは、なかなか良いカードだと思いませんか?内容はともかく僕は字面だけで、ちょっとわくわくします。一応、先に仕掛けたのは R-指定 (Creepy Nuts) の方なので、SALU からアンサーが返ってきた以上、いちヘッズとしてなんらかのアクションを期待してしまいます。

続きまして SKY-HI のバースをこちらも個人的な解釈で解説していきたいと思います。こちらのバースも SKY-HI のラップが炸裂していて、とんでもないことになっています。
【次のページ】verse 2: SKY-HI → FLY BOY RECORDS?

verse 2: SKY-HI → FLY BOY RECORDS?

FLY BOY RECORDS とは DJ TY-KOH、KOWICHI、YOUNG HASTLE、プロデューサーの ZOT on the WAVE らで構成されたインディレーベルです。
ショーウィンドウに粗悪な消耗品 それで酔っぱらえるなんてねぇ 本当 君たち正気?

これは FLY BOY RECORDS が2016年4月に発表した “毎日飲む酒” を指していると思われます。クラブミュージックとしての側面を持つヒップホップの特性上、お酒に関する曲は山ほどリリースされているはずなので他にも当てはまる曲もありそうですが、このリリックの続きも合わせて読み解くと “毎日飲む酒” 説がより深まります。

“ツマミにもならない君とは絡まない レプリカのスキルとそのドヤ顔 空回り”

これは FLY BOY RECORDS のなかで唯一 “毎日飲む酒” に参加していない KOWICHI のことを示唆しています。曲に参加していないことをお酒の “ツマミにもならない君” と表現していて、続く “レプリカのスキルとそのドヤ顔 空回り” は KOWICHI を知ってる方には説明するまでもないですが、楽曲のフック(サビ)部分のフロウ作りをすべてプロデューサーの ZOT on the WAVE に任せているにも関わらず何故か自信満々な態度を揶揄しているものと思われます。一時期は髪型やラップスタイルが KOHH を真似しているのでは?と一部のヘッズに言われていましたね(普通に聴いていれば完全に別物だとわかるはずですが)。

“もういい ぬるく冷めたコーヒー あとは元が炭酸でも 気の抜けた砂糖水”

リリックが前後して申し訳ないですが、ぬるく冷めたコーヒーは SALU が比喩で使った “紅茶” に対するアンサーです。どうせならもっと “Hot” な淹れたてコーヒー(ホットな曲)か、”Cool” なアイスコーヒー(イケてる曲)が飲みたい(聴きたい)ということでしょうか。

“元が炭酸でも 気の抜けた砂糖水” はヒップホップ特有の少し馬鹿っぽい内容のリリックでも、ライミングやフロウのバリエーションによって炭酸水を飲んだときのような爽快感が加わるから聴いていて楽しいわけで、ひどい内容のリリックにも関わらず目立った工夫もなければひねりもない気の抜けたラップは退屈で聴けたものではない、ということを表現しています。

個人的に最近の FLY BOY RECORDS の作る楽曲は、SKY-HI の言葉をそのまま借りるなら “気の抜けた砂糖水” のように、炭酸特有の爽快感が一切ない “ただ甘ったるいだけ” の飲み物です。まあ、それでも扱うトピックに興味関心がある中高生の層にはウケるのでしょうけど。少なくとも僕はそういう曲をカッコいいとは思えません。

仮に SKY-HI “Purple Haze” のディスの矛先が FLY BOY RECORDS だったとして、なぜそこまで言うのか?ちょっと言い過ぎじゃないの?と思わなくもなかったので、気になって調べたのですが実は KOWICHI も2014年に発表したアルバム「The Diner」に収録されている “W.A.C.K” という曲でシーンに対して物申していたんですよね。曲の中では “え?今日ハロウィンだっけ?メキシコっぽいあそこの彼 俗に言うアレは何々系?俺そういうの別に興味がねえ” と AKLO ?を揶揄していたり、ウェッサイ系という括りで自分たちの音楽を取り上げるメディアや、AK-69 や DS455 のモノマネラッパーをディスっていたり。(個人の感想として)少なくともこの頃の KOWICHI はまだギリギリ聴ける方だった思います。とはいえ、2年以上前のアルバムなのでいま聴くと若干古さを感じますけど。

で、2016年の KOWICHI、FLY BOY RECORDS(に限らず日本語ラップ全般)はどうだったでしょうか?ツイッターで人気の某同人漫画で取り上げられるようなネタとして描きやすい “面白そうな雰囲気の曲” はあったとしても、その中で本当にカッコいい曲はいくつあったでしょうか?

日本語ラップ村には少数派を気取る癖にシーンの中で話題になると流されて結局周りと同じものを聴きはじめたり、逆に聴かなくなったりする人が多いと思っているのですが(周りに流されるのはダサいと思うけど、結局はそれも含めて個人の趣味嗜好の話なのでそれはそれでいいとも思ってます)、純粋な疑問として本当に “それ” を良いと思って聴いている人は何人いるのでしょうか?

…とか他人に対して自分の価値観を押し付けようとすると、それは自分にもカルマとして返ってきます(いきなりスピリチュアルなこといってすいません)。KOWICHI に揶揄されていたラッパーの AKLO も “Bob Dylan” という曲で “俺だってやっぱなりたいのさ Better Human” と言っていましたが出来れば僕も良い人間でいたいですし、書いていて自分も同じように書かれたら嫌だな、と思ったので、これ以上余計なことは言うのはやめておきます。解説というか感想?に戻ります。

“どこ逃げても見てるぜ 鏡の向こう そいつに嘘ついたままで 笑えるならもう重症 行き当たりばったりで ボロボロのハリボテのハッタリ 俺は君の急所を射抜き この聖地守り抜くサラディーン”

これは結構グサッとくる人がいるリリックなんじゃないですかね…?ちなみに僕はグサッときました。聴くたびに背筋が伸びます。因みに、リリックに出てくるサラディーンと言えば RHYMESTER の ONCE AGAIN (Remix) で TWIGY も言っていましたね。そこも何か繋がりがあるのかな?なんて。

作品の中での表現方法は違えど、長く生き残っているラッパーは基本的にみんな思っていることは似ているような気がします。僕の好きなラッパーのひとり SEEDA も高校生RAP選手権のライブで、バトルに出場していた高校生ラッパーに向けて同様のメッセージを伝えていました。”ラッパーになる前に自分になれ” 。この言葉は KOWICHI も “W.A.C.K” の中で引用していました。要するに、流される前に自分を見つめ直せってことですよね。このときのライブ映像がYouTubeにあったので貼っておきます。ちなみにこのときのライブDJは DJ TY-KOH 。ナイスコンビです。

さて、いままで解説した “Purple Haze” SKY-HI バースにおける FLY BOY RECORDS ディス?ですが、アルバム5曲目 “ライトセイバー” のフレーズに繋がり?を発見したのでここに記しておきます。
“君の軽口 L→Rに斬る このセイバー Hit You”
「L→R」の表記は歌詞カードをチェックするまで気が付かなかったのですが、これを見て浮かんだのが、この写真です。

SKY-HI の右隣には KOWICHI、DJ TY-KOH が写っています。そしてキャプションには「L→R」と記されています。左から右に斬る、なら SKY-HI の右隣に写っている KOWICHI、DJ TY-KOH を斬るということで “Purple Haze” のリリックとも繋がっていますよね?どうでしょうか?単なるこじつけですかね?こうなると「君の軽口」も、彼らが楽曲作りに選ぶトピックの軽薄さを指しているように思えてきます。

と思ったので、引用RTで呟いてみたらご本人から説明して頂きました。これは左から右に一刀両断、とライトセイバーの Light の L を R にして、Right = 正す、という意味のようです。港に溢れるヒップホップと呼ばれているものの方向性を正すための言葉がアルバム全体に散りばめられているのは確かなようです。なにも KANDYTOWN や FLY BOY REDORDS だけに限った話ではないということですね。

例を挙げたらキリがないですが、その中の一例、アルバム6曲目 “H.Y.P.E.” で SKY-HI はこんなことを言っています。
“新時代の才能 あの大御所も太鼓判? ジャンルはボーダレスで高評価? 黙れよ エセ評論家”

これは “RGTO” の SALU のパンチライン “SALUくんには頑張って欲しい は?お前が頑張れエセ評論家” を受けたラインですね。このときの SALU も強烈なインパクトでしたが、今回の SKY-HI の方がより “エセ評論家” を強めに牽制してますね。このラインに関しては僕自身も、かなり思い当たる節がありまして…。己の書いた記事を読み返し素直に反省してます。だからといって「黙れ」と言われて黙るつもりもありません。今後も自分のペースで書きたいことを書きたいと思ったタイミングで書くつもりです。

他にも色々とシーンに言及している箇所がありますが、さすがに長く書きすぎたし探すのも疲れてきたし読んでくださる方も疲れると思うので(また別の記事で書こうと思います。そのときはまたよろしくお願いします)今回の解説はこの辺で。

総括

アルバムの1曲目 “Say Hello to My Minions” で、海外のクラブチームで活躍した元サッカー日本代表・中田英寿の名前と彼の代名詞であるキラーパスがシャウトされていますが、このアルバムも日本のヒップホップシーン全体へ向けた絶妙なキラーパスだと僕は思います。ここで言うヒップホップシーンはプレイヤーだけではありません。リスナーも含めたヒップホップに関わる全ての人間です。言うまでもなくパスを受けた人は “次” のプレーの選択を委ねられています。更にパスを繋いだり、ドリブルで仕掛けたり、ゴールを狙ってシュートを打ってみたり。思うようなパスが回ってこなかったり、攻め方に納得がいかなくて「そんなのヒップホップじゃねえ!」と思うならボールを奪うしかありません。僕自身は作品を聴いて「追いつけるかわからないけど強めのパスが来た!」と思ったので、必死にボールを追いかけ、ボールを一度キープしつつ、同じく日本のヒップホップを好きな人に向けてパスをしよう、という気持ちでこの文章を書いています。

そういえば Zeebra も呟いていましたね。「本気なら君もヒップホップ」って。多分そういうことだと思います。誰が悪いとか別にないですけど、自分も含めて本気な人が少なかったんじゃないかなって。

だからこそ優れた作品やイベント、企画、もしくは意見等に、それぞれのやり方で “アンサー” するべきですし、その行為が増えるにつれて日本のヒップホップもどんどん活気づいていくんじゃないかな、と勝手に思っています。仮にラッパーを応援するつもりで批評した結果、「お前が頑張れエセ評論家(by SALU “RGTO”)」と言われてしまっても、中身のない文章を書いて「黙れよエセ評論家(by SKY-HI / “H.Y.P.E.”)」と言われても、本当にヒップホップが好きなら黙っちゃ駄目だと思います。黙ったら終わりです。素直に受け止めるべきところは素直に受け止めて頑張るべきです。本当にヒップホップが好きなら、多少的外れだったとしても好き勝手に作品を発表したり、意見を表明していいはずです。本当にヒップホップが好きだったら。

あと、自分が気づいていることで周りがまだ気づいていないことは絶対にあるはずで。「楽しいこと」「面白いこと」そしてたまには「駄目なこと」も、、、みんなで持ち寄れば日本のヒップホップはもっと盛り上がるはず。持ち寄ったものをベースに、それぞれのやり方で、それぞれのゴールを目指すのが理想的な形だと思います。このブログメディアも更新ペースは非常に遅いですが、日本のヒップホップが好きな誰かの役に立てれば幸いです。

最後までお付き合い下さいましてありがとうございます。こちらからは以上です。

(この文章は、SKY-HI × SALU のアルバム「Say Hello to My Minions」、RealSoundに掲載された渡辺志保さんのコラム、MC松島のつぶやきから勝手にパスを受け取った気分で、アンサーのつもりで書きました。)

蛇足ですが、色々余計なことを書いてしまったので KANDYTOWN、FLY BOY RECORDS 関連の作品も一応紹介しておこうと思います。
【次のページ】KANDYTOWN、FLY BOY RECORDS 関連のおすすめ作品

KANDYTOWN 関連 おすすめの一枚

まずは KANDYTOWN の中心人物 YOUNG JUJU のアルバム。記事内でも先に紹介しましたが、MVの発表のタイミングや発売の時期を考えるとアンサーを意図して制作されたとは思いませんが、今回の SALU の鋭いキラーパスにうまくシンクロした部分もあってより楽しめるはずです。クルー作品とは一味違った YOUNG JUJU のラップが聴けておすすめです。個人的には2016年に発売されたアルバムの中でベスト3に入る作品でした。

FLY BOY RECORDS 関連 おすすめの一枚

2016年に話題になった彼らの作品として、アルバイトをせずに音楽のみで生計を立てるという意思表示をした楽曲 “バイトしない” があります。切り口は新鮮でしたが、個人的には人におすすめする程ではないと思いました。なので、他に挙げるとするなら、2015年に KOWICHI と DJ TY-KOH が客演参加した AK-69 の(くしくもテーマが “お酒” の楽曲…) “A Hundred Bottles REMIX” です。2人以外にも SIMON、SOCKS が楽曲に参加していますが、正直なところ AK-69 の格の違いが際立っているように思えます。この作品も「人におすすめ出来る?」と言われれば正直微妙なところです。ならいちいち触れるなよって話ですが、この楽曲が収められているEP用に制作された NORIKIYO が参加した “ロッカールーム -Go Hard or Go Home- REMIX” がとても良い感じでした。AK-69 × NORIKIYO は日本のヒップホップ/日本語ラップ好きにとっては意外なコラボではないでしょうか。ということで AK-69 の配信限定の作品集「The Spirit of 69」を若干無理やりですが “関連作” としておすすめします!

ライムハック: