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LARGE IRON × MC松島「真髄TV収録後トーク(Q1 2016)」文字起こし

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突然ですが皆さん、札幌のヒップホップイベント「真髄」をご存知でしょうか?「真髄」とは北のアンダーグラウンドからマイクジャックプロダクションのメンバーとして日本語ラップシーンに名乗りを上げた LARGE IRON が発起人の異色のバトルイベントです。流行のフリースタイルバトルと違い、各自用意してきたバースで勝敗を競います。つまりライブパフォーマンスでどれだけ観客をロック出来るかで勝敗を決めるルールなので、出場者にとってはミュージシャンとしての技量が試される、ある意味フリースタイルバトルよりもシビアな大会となっています。大会の模様↓

と手短に説明しましたが、以降「真髄」の話は一切出てきません(一般的な “MCバトル” の話は登場します)。今回のメインはその大会情報を発信する「真髄TV」の特別編として LARGE IRON も所属するトウキョウトガリネズミのオーナー MC松島 がゲスト出演した回のおまけで収録された音声「真髄TV収録後トーク(2016年3月公開)」です。内容が面白いと思ったので、チャレンジのつもりでほぼ全編に渡り文字に起こしてみました。長めの記事なので大まかな話題ごとに小分けしてチェックできるように12個+1のチャプターを用意しました!
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  1. LARGE IRONとMC松島の出会い
  2. どうなの日本語ラップ?
  3. 路上の喧嘩とボクシング
  4. 音楽と仕事
  5. レペゼン音楽ファン
  6. 対東京
  7. 日本のヒップホップはカルチャー未満?
  8. 趣味と文化
  9. フライドポテトとあん肝
  10. キムタクとジェイ・Zとホリエモン
  11. 夢と現実
  12. 面白いことがしたいです。
  13. MC松島 vs LARGE IRON「FIVE WAYS」

MC松島の風変わりだけど鋭い視点。それを大人の包容力で受け止める LARGE IRON 。2人のトークを是非お楽しみください!(※エピソード毎にツイート出来るようにしています。盛り沢山の内容なのでまとまったお時間のある時や通勤通学の電車の中など合間を縫って少しずつ読み進めて頂ければ嬉しいです!)それではどうぞ!

1. LARGE IRONとMC松島の出会い

LARGE IRON: 日頃まっちゃんとは、マイクジャック(Mic Jack Production)のメンツよりもLINEとかのやりとりが多いんじゃないかなってくらいなんだけど。 実はMC松島をものすごくリスペクトしていて。

MC松島: 本当ですか?いやー恐縮です。10年前の自分に言いたいですね。それは。

LARGE IRON: 僕のバトルのキャリアはMC松島に負けたところから始まってますから。当時はライフスタイルのようにフリースタイルをしていて、「何?バトル?余裕だよ」って軽い気持ちで出た結果、コテンとやられて。あれが自分の中で戒めというか、何が起こってもおかしくないのがフリースタイルバトルなんだな、というのを最初の経験で感じられたから、もの凄く感謝しているよ。

MC松島: もう7-8年前、2008年とかですよね。僕にとって本当に大金星でしたね。あの街で荒れ狂っていたマイクジャックプロダクション。当時のバイオグラフィーなんて「199x年から活動開始し、夜な夜な破壊行為を繰り返し~」とかそういうプロフィールだったから(笑)

LARGE IRON: 確かにそうだった(笑)でも、気の良い音楽好きなお兄さんたちじゃなかった?

MC松島: そういうイメージでしたよ。俺なんて別になんてことない20歳ぐらいのMCでしたし、今でこそバトルの強い20歳くらいの子はいっぱい居ますけど、あの時MCバトル自体が札幌にはあまりなかったし、まさかっていう。で、しばらく別に優勝とかしなくても、ラージアイアンに勝った人だっていう認識されました。凄かったです。

LARGE IRON: そうなんだ(笑)懐かしいね。まあでも、肝心なのは今ですよ。どうなの?今の日本のヒップホップと。松島ともよくそういう話をするけども。
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2. どうなの?日本語ラップ

LARGE IRON: 正直、今ラッパーの人口も当時に比べればすごい何倍にもなっているだろうし、『フリースタイルダンジョン』なんて番組もやってるくらいでさ。小中学生からラップを始めてる子もいる。一方で、ラップの競技人口がこれだけ増えている中、ヒップホップのシェアって果たしてどれくらいなのだろうって。正直、閑散としてるよね?

MC松島: 下手したら2000年くらいの方が多いんじゃないですかね?当時の東京の人たちはソロアルバムをリリースしたらみんなZEPPとかでライブをしていたんですよね。今はそうもいかないじゃないですか。だからやはり増えてるには増えてるけど、どうなのかなっていう。

LARGE IRON: 増えてるけど、食えてるのか?みたいなね。

MC松島: ですね。これだけテレビで取り上げられていようが熱気みたいなものはあまり感じないですよね。

LARGE IRON: 昨今、札幌のヒップホップ界隈では若者のクラブ離れが言われていて、ヒップホップのパーティーには50人集まれば良いっていうのが現状じゃない?その反面EDMのパーティーは札幌でも1000人規模のパーティがボンボン打たれてるっていう。

MC松島: だいたいどの街もそんな感じらしいですね。でも僕はしょうがないのかなって思いますよ。

LARGE IRON: というと?

MC松島: やっぱり一時的な流行だったと思うんですよね。一番盛り上がってる時のヒップホップって。

LARGE IRON: うん、当時のね。

MC松島: 1970年代のブロンクスの時だって当時はクラブ、ディスコで演奏しているバンドマンの人達が DJ にとって変わった訳じゃないですか。バンドがレコードに変わってバンドマンの人達は職を失ったと思うんですよね。それを自分らもやってきたから、新しい音楽とか新しいエンターテイメントにやられてもしょうがないというか。

LARGE IRON: うん。

MC松島: ロックとかカントリーとかブルースがヒップホップに変わったっていう時点でそれは常に起こるものだと思うんで、すぐにEDM始めなかったお前が悪いよっていう。それをどんどん気付いて乗り換えていくしか生き残る方法はないはずなので、時代とか国民性のせいにして、ヒップホップの不人気を語っていてはダメだと思うんですよね。

LARGE IRON: なるほどね。でも俺らはラッパーな訳じゃん?今現在ラップを取り入れた音楽が増えて当時に比べれば日本の中でラップが浸透してるかもしれないけど、その反面、ヒップホップに対しての認知度がまだ低いのかなっていうのは感じるのだけど。

MC松島: どうなんですかね。増え続けているとは思うんですけど、イメージは悪いですよね。でもそうせざるをえない部分ってのも原因はこっちサイドにもあると思うんですよ。

LARGE IRON: それはヒップホップのイメージがあんまりよろしくないということ?

MC松島: 全員が全員そうとは思いませんけど、結構内部の人は “理解されたくない” っていう欲があると思うんですよ。

LARGE IRON: あー…。
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3. 路上の喧嘩とボクシング

MC松島: 俺はヒップホップやってるし、お前にはわかんないんだぜ、っていう。普通のJ-POPとか聴いてる奴にはこれは理解出来ないんだ、みたいなテンションをヒップホップの人は出していると思いますね。全員が認知させようと思って動いてないから、そりゃ流行らないだろって僕は思います。でも逆にそれが必要悪じゃないですけど、「俺たちはヒップホップを流行らせるためにやってる」っていう美学もあるというか。

LARGE IRON: うん。

MC松島: 例えば路上で喧嘩していて「こいつ一番喧嘩強えーよ。」と言ってる人に対して周りが、「じゃあグローブをはめて、あのチャンピオンを倒してこいよ」って言ったときに、「いや、グローブをはめるのは喧嘩じゃねえ」と言い返しているような状態だと思うんですよ。そしたら世間からしたら、「いや、じゃあボクシングの世界チャンピオンの方が強いんだったら、別に路上の喧嘩を見る必要ないじゃん」と、自然とそうなると思います。それがずっと続いてる。グローブをはめないし、リングにも上がらない。なのに「なんで俺らこんな強えのに!」って言ってる状態だと思うんですよね。

LARGE IRON: それが今の日本のヒップホップなんじゃないかと?

MC松島: 多分最初からずっとそうです。で、グローブをはめた人に対して「あれはスポーツだから。こっちは路上の “リアル” ファイトでやってるから」って言ってるから、「あっそう。じゃあいいよ。もしかしたら殴られるかもしれないし、見に行けないわ」ってなってるだけだと思います。

LARGE IRON: すげえわかりやすいね(笑)すげえわかりやすい。

MC松島: ずっとそうだと思います。だからもしかしたら流行らない方がヒップホップにメリットはあるかもしれない。その代わりやっぱり世界と戦わないといけないと思いますね。日本の紅白歌合戦に出るとか、レコード大賞を獲るとかは、凄い売れる人が居れば、もしかしたら出来るかもしれないですけど、グラミーを獲れるようなアーティストが日本から出るとか、そこを目指すべきだと思うので国内の人気とかは認知はもう要らないのかなって。
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4. 音楽と仕事

LARGE IRON: なるほど。でもさ、俺らラッパーは音楽を生活の糧にしていきたいって人が多いと思うんだけど、まっちゃんは音楽だけでメシを食っていくって人生はどう思う?

MC松島: 僕は音楽だけで、とは思ってないですね。

LARGE IRON: 他の仕事をしながらでも良いんじゃないかってこと?

MC松島: はい、どちらかいうと音楽以外でもMC松島というコンテンツで多少お金稼げたらなって。音楽だけで食ってる人の努力とか才能を目の当たりにすると全然やりたいことと違うっていうか。無理ですよ、あんなの。

LARGE IRON: 音楽で食ってる人を間近で見ると本当に大変さがわかるよね。もう四六時中、音楽のことを考えて、ものすごく音楽に人生の全てを捧げないと当然できなくて。インディペンデントでやってる人達は自分のスケジュールを全部自分で組んでいるわけだからね。

MC松島: まあ仕事ですからね。

LARGE IRON: その仕事もろくにできない奴がやっていけるのかって話だもんね。

MC松島: 僕がもし「音楽一本で食いたい」って言ってて今ずっと札幌で活動しているんだったら、かなり甘いと思いますね。理にかなってないというか。そんな奴が飯食えるって程甘い世界じゃないだろうと。

LARGE IRON: ないよね。

MC松島: 僕はそこまで東京に住みたくないなって感覚なんで。その代わり僕が目標としているのが、プロの人たちに見られるアマチュアというか。「お前は自由にやってるよな、羨ましいよ」って言われるようなことをしたいですね。

LARGE IRON: 俺は最近思うことがあって。ヒップホップ/ラップをしていることを誇りに思っている反面、どこか言い訳にしている所がある人が多いような気がしていて。今現在、ちゃんと音楽で自分の生活基盤が作れていないなら、別のことでお金を稼ぐような動きをしないと、最終的に音楽も出来なくなってしまう。

MC松島: はい。

LARGE IRON: どこのラインで音楽をやってるってことになるのかっていうのを考えた時に、例えば最低限ライブをやるとか、作品を作って何かしら公表している、とかならまだ良いんだけど、正直それもせずに「俺はラッパー」だとか…。

MC松島: そんな人います?

LARGE IRON: いや、結構いるでしょ。どうなりたいのかわからない人。

MC松島: 夢が小さすぎる人はいっぱいいますよね。今は下手したら iPhone だけあればネットに曲を出せるし、それってすごく良い事だと思うんですけど、そのせいで自称ラッパーが増えてるって意味では良くも悪くもって感じはしますよね。

LARGE IRON: うん。
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5. レペゼン音楽ファン

MC松島: やっぱり一回、みんな格付けを一個づつ下げた方が良いと思うんですよね。で、僕は自分のこと音楽ファンって言っているんですけど、僕より下にいるひとは全員音楽ファン以下にしてくれと。

LARGE IRON: その音楽ファンっていうのは、どういうこと?

MC松島: 僕は自分のことを「音楽ファン」だと思っていて。まあ曲も出しますし、ライブもしますけど、ファンの生活の一環として僕はやっているので。価値観はいろいろありますけど、アーティストって自称している人のなかで、僕よりラップが下手とか、曲を書くのが遅いとかって人はみんなファンかそれ以下に下げないと、このままだとやばいと思っているので。シーンの最低レベルが僕になるべきだと。これは良くも悪くもですけどね。

LARGE IRON: なるほど。松島レベルでようやく音楽ファンなんだと。それに比べて君はアーティストなの?っていう指針に自分がなればいいってこと?

MC松島: そうですね。

LARGE IRON: でもそれはなかなか身を犠牲にしてるね(笑)でもまっちゃんはアーティストだと思うけどね俺は。

MC松島: でも、それくらいのレベルじゃないと夢も希望もないよなっていう。年に1~10曲くらい作るだけじゃアーティストとは呼べないんじゃないかなって。

LARGE IRON: 確かにそうだよな。

MC松島: で、僕はあまり自分で言うのもなんですけど全国何位とか度々獲っていて、それでもファンの領域だと。で、お前らはどうやって飯食って、どうやって金持ちになるんだ?っていうのは見せないといけないのかなって。特に新しく始めた人に対しては。ーーー逆にアーティストとかミュージシャンではない音楽ファンの人の作る音楽をいっぱい聴くのが好きっていう、音楽ファンのファンも生まれてきても良いのかなって。

LARGE IRON: それは、よりサブカル的な派生をしてくってイメージかな?

MC松島: 同人誌みたいな感覚でもいいのかなって思いますね。売れていない漫画家よりは売れている同人誌の人が儲かっていたりっていう例もあると思うんですよ。そういう感じです。
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6. 対東京

LARGE IRON: 実際こうやって札幌でお互い活動している音楽ファンだったりラッパーだったりするわけなんだけど、対東京という視点、大先輩のブルーハーブ(THA BLUE HERB)が 1stアルバムの頃打ち出したスタンスで、当時僕も心の中で言ってたのが「東京出て音楽やるのなんて古いんだよ」みたいな。tha BOSS、ILL-BOSSTINOのリリックにもありましたけど。東京でヒップホップをやってる人たちと、札幌でやってる人たちの違いを感じることある?

MC松島: うーん。まちまちだと思いますけど、でも根本的にやる気が違いますよね。特に地方から東京に出て来てる人のやる気なんて本当に凄いし、だって “東京に家を借りる” 時点で相当なやる気が必要じゃないですか。

LARGE IRON: うん。

MC松島: それが例えば “地元の実家に住んでる” やつと同じやる気かって言われたら、それは違うだろうと思いますね。でもそれは作品の良し悪しに関係ないんですけどね。特に音楽に関しては、たまたまいい曲作れるかもしれないし、やる気がある人に運が巡ってくるかはわからないですけど、やる気が一番違うのかなって気はしますね。

LARGE IRON: 意識が高いんだよね。だからこそ東京に行ってやるんだよね。

MC松島: そうだと思いますね。

LARGE IRON: 東京は絶対的に人口数も違うもんね。札幌なら人口200万人都市で、東京だったら1500万人とかなのかな?まあ1000万人以上いる訳で。まずそれを求める人達の数も違うでしょ?その差ってあるのかなって。

MC松島: あと情報量が違いますよね。観れるライブの数も違うし、有名な人も東京にしか来ないこともザラなんで。日本一詳しい人、日本一曲持っている人とかたぶん全部東京に居るんで、そういう人達と会ったり出来るのは本当に違うと思いますね。

LARGE IRON: なるほどね。

MC松島: でも、それと同じくらい地方にもアーティストのメリットになることがあると思うんですよ。山が綺麗とか、空が綺麗とか、それからちゃんとインスパイアされれば別に優劣はつかないはずだと理論的には思うんですけど、でもやっぱりお金一番持っている人も東京にいるし一番有名な人も東京にいるし。ていうのはありますよね。

LARGE IRON: なんかでもアメリカのシーンを見たときにさ、特に昔はニューヨーク、ロサンゼルスってのがあってさ。でも、今のヒップホップシーンを牛耳ってるのはアトランタの人間だったりして。アトランタのプロデューサーやラッパーが作品にがんがん顔を出してるような時代になってて。アトランタって結構南部のとこでさ、田舎っちゃ田舎なわけですよ。でもそういうところが今シーンを作ってるって現状が海外でもあるし、例え札幌に住んでいたとしてもできることは当然あると思ってるんだよね。

MC松島: 僕たまに思うことがあって。例えば、ボブ・マーリーがいた頃のジャマイカだったり、ビートルズがいた頃のリバプールよりも全然いまの札幌の方が人口が多い。人口比率だけでいえば世界に名を轟かせるミュージシャンが一人か二人いてもおかしくないはずの街なんですよね。

LARGE IRON: うん。

MC松島: て考えたら決して不可能じゃないのかなと思いますけど、やはりムーブメントを起こす力っていうのは、曲作るとか以前に、民衆を先導するカリスマ性のある人材が必要だと思うんですけど、理論的にはそういうことが札幌で起きてもおかしくないのにな、とずっと思ってますね。

LARGE IRON: 何なんだろうね、タイミングとか、いろいろなものがマッチしたときにそういうことが起きるんだろうね。

MC松島: 今はその起きる確率をあげていくことしかできないですね。僕は札幌の音楽が世界の一個のジャンルになるのは甘くみて100年後だと思ってて。その100年後に大天才が生まれるんですけど、その人に良い影響が与えられればなくらいしか僕は思ってないです。

LARGE IRON: うん。

MC松島: 自分の一曲で変えるっていうのは諦めていますね。自分の一曲で100年後に生まれる天才が多少インスピレーションを受けたりとか、そいつが活動しやすい環境が残っていればくらいの貢献が出来れば、良い人生だったかなって思いますね。
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7. 日本のヒップホップはカルチャー未満?

LARGE IRON: 俺は今年36になるのだけど、マイクジャックやソロでずっとやってきて東京でやってる人達と自分を比べることもある訳ですよ。音楽性とかって部分に関して自分は負けてないと思うし、自分の存在、自分が書く歌詞、自分のフロウ、伝えたいこと、自分にしか表現できないことをやってきたつもりだけどある程度ね、自分のラッパー/アーティストとしての可能性っていうかね、正直わかってるわけですよ。僕も。

MC松島: はい。

LARGE IRON: 自分がラッパーとしてアーティストとしてヒットしてめっちゃアンダーグランドだけどすごいお金持ちになるとか、それを夢見てやっている時期じゃなくて。でも今までの人生、18くらいからヒップホップやり出そうかな、音楽でメシ食えたら良いな、って思いながら始めた、で今もうここまで36まで年重ねて来てある程度、自分の可能性ってのは結構あっさり見切りつけてるんだよね。正直ね。

MC松島: 大丈夫ですかね?そんなこと言っちゃって。 でも面白いですけどね話としては。

LARGE IRON: でも確実に今までの人生でヒップホップから受けてきた恩恵はあるんですよ。色々なものを経験出来たし、色々なものを手に入れれたし、たぶん唯一手に入れられてないのはお金くらいじゃないかってくらいヒップホップからいろいろなものを得て来てるから。アーティストとしても当然やり続けるけど、俺は残りの人生でヒップホップってものに何か恩返しができたら良いんじゃないかと。

MC松島: めっちゃいい話ですね。

LARGE IRON: それが今思えてるからやれてるし、モチベーションになってる。俺の中でヒップホップへの恩返しなんだよね。こういうことを地方都市からまた新しいことを一回やってみるってことが、ヒップホップへの刺激になればいいのかなと思って今こうやってやってはいるんだけど。

MC松島: はい。

LARGE IRON: 自分がアーティスト/ラッパーとして認知されることと同じくらいに、ヒップホップていうものをもっと世の中に浸透させていくことが、ある意味自分がヒップホップで食っていくという夢に近づくということなのかなって。ラップ/ヒップホップでメシ食いたい、それは当然の答えだとは思うんだけど、それぞれ我が強すぎる気がしてて。

MC松島: はい。

LARGE IRON: 例えば仲間がやってることに協力するとか、仲間のパーティに行くとか、 ベテランの人達も顔出すとか。「あ、〇〇さん来てる」みたいなさ。それしかないからさ。若い奴らだけだったりとか、ちょっと寂しいなと。大体決まったメンツがいるんだよね。

MC松島: ビジネス的に考えても難しさあるし、カルチャーとして考えても難しさありますよね。なんなんですかね…やっぱ働いちゃダメなんじゃないですか?BBOYは

LARGE IRON: あれ、さっき仕事はした方が良いって話だったけど?(笑)

MC松島: なんか適当に遊ぶカネだけ作って、実家に住んで、じゃないとダメだと思うんですよね。今の話聞くとやはり大体就職とか結婚とか出産とかのタイミングでヒップホップから離れちゃう訳じゃないですか、引退っていうか。その時点で僕は文化と認めてないですけどね。ずっと続けられるものじゃないと文化じゃないから。

LARGE IRON: うん。

MC松島: ずっと続けるためには30-40-50になっても結婚とかせず適当にその日のお酒代くらいを常に稼ぐっていうような、じゃないと。たぶん当時のアメリカにはそれがあったと思うんですよね。マジで差別されているだろうし、マジで治安も悪いから。日本では難しいのかなと思いますね。
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8. 趣味と文化

MC松島: 僕は趣味と文化って大きさが違うと思ってて、 “将棋をやる人” と “ボードゲームという文化” 、くらい違うと思ってて。ヒップホップってまだやっぱ日本で文化として受け入れられてない気がしますね。今流行ってるだけっていうか。

LARGE IRON: やー確かに。

MC松島: 70-80歳くらいのプレイヤーがせめて何人もいないとまだ始まったと言えないっていうか。100歳ぐらいの人と生まれたばっかりの人が共有できるのが文化だと思うんですけど、まだ居て40-50じゃないですか。だからその世代に流行ってる趣味に留まっているんじゃないかなって思いますね。

LARGE IRON: つまり我々はまだ文化の礎を築く段階のちょっと前くらいでしかないってことだね。

MC松島: 多分全体で見たら音楽で見ても「変わった歌い方が出現した時期があります」ってくらいだと思いますね。多分ロック/パンクとかを学生の時にやってた人達って今はお父さんじゃないですか。でも続けてる人もいるし、きっとその人達は続けていく。そういう前例がまだないっていうか。本当に僕たちが頑張んないといけないって話になると思うんですけど、結局。

LARGE IRON: そうだね、酒呑んでとぐろ巻いてる場合じゃないよねー。

MC松島: 文化感/コミュニティ感もあんまり感じないですね。不良が減ったと同時にヒップホップも減ってるというか。なんていうか、ヒップホップ全体で矢沢永吉さんとか浜崎あゆみさんみたいな(?)場所に行けるなら多分成立すると思うんですけど。今なんかその暴走族みたいな人たちがいなくなるにつれてやっぱヒップホップの雰囲気が減ってるっていうのは、なんかそういうものなのかなって思いますよね。

LARGE IRON: 若い人達の文化/遊び方としてヒップホップのクラブとかパーティに行くってチョイスが低いんだろうね。当時より。人口は多いし認知してる人は多いんだけど、時代的に若い人たちのトレンドになってないっていうか。

MC松島: 当時流行ってたってのもあると思いますし、クラスでイケてるヤンキーとかチーマーの人がヒップホップ好きだから、「あれはイケてるカルチャーなんだな」って認識があったと思うんですけど。今もうどっちかって言うと、いじめられっ子がマイクでは不良に勝つみたいな、完全にやられキャラの人が多いんですよね。ヒップホップって。まあそれも正しいと思うんですけど音楽としては。

LARGE IRON: オタ感が強すぎるってこと?

MC松島: 「これがあるから俺は!」っていうのはすげえ美しいし音楽はそうあるべきだと思うんですけど、故にイケてる人はEDMのクラブに行くしっていう。あと単純に音楽的にもEDMのクラブの方が一つになりやすいですよね。ヒップホップは暗いし、遅いし、英語でずっと言われてもわかんねえし。本当全然しょうがないと思います。
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9. フライドポテトとあん肝

MC松島: 唐揚げとかフライドポテトと、変わったおつまみ…、あん肝とかカラスミとか。わかんないですけど、頼むのは絶対ポテトじゃないですか(?)ていう状態なんですよ。それを認識した方が良いと思いますね、俺らはあん肝なんだから。ポテトになろうと思うのは違う。でも他の魚系のおつまみに負けないように美味しいあん肝作り続けようぜってシフトしてかないと、なかなか根付かないという感じはしますよね。

LARGE IRON: すごい話だね(笑)でも言わんとしてることはわかる。フライドポテトかあん肝かって言われたらフライドポテト頼むよな。

MC松島: 大丈夫な方を頼むじゃないですか。食べれない人いないし。でも「フライドポテトないと死んじゃうよ><」ってくらいフライドポテト好きな人と、「あん肝ないと死んじゃうよ><」ってくらいあん肝好きな人って実は人数変わらないと思うんですよね。それをちゃんとあん肝好きな人に届けないと、って感じはしますね。本当にマニアックな人の需要に提供する、供給するものが合ってない気がします。今のヒップホップって。

LARGE IRON: 日本において?

MC松島: 日本において、札幌において。インターネットでリスナーの人がアーティストの曲を聴ける/世界トップレベルの DJ の DJプレイが無料で見れるという状況で、現場のクラブで聴いた方が面白いってなるものって一個もないと思うんです。これだったら家で世界レベルのプレイを見た方がお酒も安いし好きな物を食べられるし、全然しょうがない状況なのに何を頑張ってるんだっていう。むしろ何を頑張って勝つ気でいるんだって正直思いますね。

LARGE IRON: なるほどね。自分の部屋でも iPod や iPhoneとかでも、好きな音楽を好きなタイミングで聴ける状況だもんね。

MC松島: ですね。

LARGE IRON: 音源をどこでも聴ける時代だから CD っていうのが一種のファングッズ、ジャニーズのうちわとかタオルとかグッズ的なものな気がして。でも音源だったらいくらでも加工できるじゃないですか。それ生で観たときにさ、どう表現出来てるのか。だからこそ生のライブが重要になってくるのかなって。

MC松島: そうだと思いますね。いちミュージシャンとしても。

LARGE IRON: 生での体験っていうのが、どんどんネットが進むほど価値を帯びてくるっていうかね。

MC松島: となるとさっきも言いましたけどボブ・マーリーかビートルズの YouTube を家で見るより、俺らのライブの方がやばいって要素がいくつもないとダメだと思うんですよ。

LARGE IRON: そうだね。

MC松島: それは大変ですよね。だってもっと広げて考えると、何十年も前の希少な映像とか深海の映像とか宇宙の映像とか何でもいいですけど、それを見てる人達に対して「お前ら何見てんだ?俺らのライブの方がおもしれえよ」っていう要素が全体としても必要だし、個々にもそれぞれ必要だし。

LARGE IRON: そこに立ち向かってく意識を持つことが表現者として重要だよね。自分のライブを見て音源を聴いてくれてる人達が生で観て感じてくれる為には、演じるものとして実力を常に磨かなきゃダメだよね。常日頃からまっちゃんと話してるけど。
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10. キムタクとジェイ・Zとホリエモン

LARGE IRON: うまいなと思うラッパーいます?

MC松島: いや、みんなうまいですよ。お金払って見たいと思うアーティストはみんなうまいですね。でも、正直ヒップホップのライブはやっぱ耐えれないですね。僕個人の趣味としてもそうですし、野球場でやれるか?っていうのは正直あります。どんなに上手くても。

LARGE IRON: え、それはスタジアムでってこと?

MC松島: はい。それは国民性っていうかアメリカ人とか日本人が違うってのもあると思いますけど、どんなに上手くてもやっぱ DJ のライブだとたかが知れてるっていうか。まあバンドでやりゃ良いと思うんですけど、そういう風に発展してかないとちょっと無理あるなって。億万長者になるのは無理あると思いますね。優れてる劣ってるはないし、どちらにも素晴らしさありますし、どっちが簡単かって話でもないと思うんですけど、コンテンツとして情報量が少なすぎる、ヒップホップのライブは。

LARGE IRON: うん。

MC松島: どんなに上手かろうが、その人が超スターじゃない限り成立しないと思いますね。例えばですけど、本当にめっちゃラップ上手いし、ライブも上手い人のライブよりも、キムタクがヒップホップライブするって方が面白いじゃないですか。そういうもんなんだなって思ってますね。アートフォームとして。そいつ次第っていうか。キムタク目指さねえと始まらねえなっていう。

LARGE IRON: キムタクを目指す。それは要するに個の力を高めるってこと?

MC松島: そうですね。キムタクの見た目、キムタクの演技力なり歌唱力なりキャラクター性。ぐらいのポテンシャルじゃないと、何万人の前で耐え切れるコンテンツじゃないと僕は正直思います。

LARGE IRON: それは日本では、ってことな訳じゃん?大前提としてはさ。

MC松島: アメリカも近いと思うっすね。

LARGE IRON: ジェイ・Z がやればスタジアムとかでもぱっつんぱっつんなのかな?

MC松島: 今はわかんないですけどジェイ・Z はキムタクより多分キムタクですからね。あっちでは。めちゃくちゃ金持ちだし。

LARGE IRON: なるほど、タレント性がものすごいってことね、キムタクってのはね。

MC松島: やっぱその日本国内においてホリエモンとかより金持ってるラッパーとかが出てこないと、「俺らずっとツーターンテーブルでやってるんだぜ」って理由にはならないですね、正直。「楽器くらい買えよ」ってみんな思いますもん。悲しいすけど。

LARGE IRON: うん。

MC松島: 「これは、こういう古典な様式でやってますよ」って感じでやってますけど正直言えば、実際カラオケと大差ないですし。

LARGE IRON: 音かけてやってるからね。

MC松島: ってなると、そんな高尚なもんじゃないっていうのはバレバレだっていうか。それを高尚なもののようにやってきてるから、そりゃあ流行んねえわなっていう。

LARGE IRON: いやー、すごいこと言ってるね、まっちゃん(笑)うん、すごいな(笑)

MC松島: いや、絶対そうですよ。何が悪いかとかないと思いますけど、まあ一般的な考え方はそう思われるだろうと。で、そう思われる原因はこっちにあるだろうと。まあ僕はどっちつかずでやってますけど。
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11. 夢と現実

LARGE IRON: ただなんかやっぱそのね、ヒップホップをラップを始めた人がもっと夢、昔の方が見れてた感あるもんな。今よりもな。

MC松島: そうですね。

LARGE IRON: 俺らは、少なくとも俺はそうで、でも若い人から本当に中学生/高校生からすれば今の日本のヒップホップも物凄く夢のあるフィールドに映ってるのかもしれないし、

MC松島: それは映ってないですね。

LARGE IRON: 映ってないのかね、そういうもんかい?

MC松島: 映ってないし小さい夢を見てる人達の中に入っちゃってますね。

LARGE IRON: ラッパーでメシを食うとかってこと?

MC松島: なんかそのメシを食うって思ってやってる人もいると思うんですけど。目標がすごい低いっていうか、例えば「MCバトルで日本一になる」とかになっちゃってるんですよ。昔だったら「世界を変える」くらいの奴がゴロゴロいたと思うんです。それが「どこどこのステージに立つ」「日常生活のことを歌う」ようなことが多いじゃないですか?こういう生活してて、こういうラップ書いて、それがたまにすげえ良いと思うんだよね、みたいなことを共感するみたいになってきてるんで、そんなに夢ないと思いますね。中高生とか。

LARGE IRON: (苦笑)

MC松島: 逆に漫画描いて毎週ジャンプに連載して映画化してアニメにもしてグッズの版権でお金増えるぜ。ってやつの方が全然夢あると思いますね。お笑い芸人とか漫画家とか。

LARGE IRON: 俺はね、まっちゃんね、ヒップホップを夢あるなって思ってもらいたいと思うわけですよ。僕は。

MC松島: だとしたらカネじゃ買えない経験。と友達?それか、すげえ車に乗ってみたりとか、今はヒップホップってそのどっちかになってますよね。カネか、もしくはカネでは買えないすげえことがあるだろと。

LARGE IRON: なんかそのヒップホップを糧にして大金を得て億万長者になっていくっていうことが夢があることなのか、単純にラップをやったりとか、ヒップホップに興味を持ったことが、結果的に良かったって思えればそれで良いのかね?

MC松島: 僕はその考えに近いですね。本当に僕夢叶いまくってますもん。だって、ブエノスでライブとか凄い小さいですけど、エイジアとかハーレムのステージも立ちましたし。それ中高生の僕からしたら考えつかないことだし。好きなアーティストと会って喋ったりとか、楽屋に入れるとか。完全に夢叶ってるんで。

LARGE IRON: 俺もそういう風に考えたら夢叶ってるわ。確かに見れない景色も見てきたし、びっちびちの大きい箱で人が動くとステージ上からはこういう風に観えるんだって感じたこともあったし、でもいかんせん、何が欲しいんだろうな、ヒップホップやってて。何が欲しいんだろう?大金が欲しいのかな?

MC松島: 大金じゃないですよ。

LARGE IRON: そうだよな。

MC松島: 大金が欲しくてやってたらちょっと才能なさすぎますし、ビジネスセンス無さすぎですよ。英語でやってアメリカでデビューするとかだったらまだわかりますけど、こんな狭いマーケットで。日本で一番ラップで稼いでる人でも年収1000万とかじゃないですか?札幌に年収1000万の人の何人居ますかね?ラップより札幌の方が多いくらいですよ。

LARGE IRON: 日本でラップだけで年収1000万ってとてつもないぜ?それ。

MC松島: 厳密にはヒップホップのアーティストとして芸能活動もあるのでラップだけってわけではないでしょうけど。貰ってる人はもっと貰ってると思うんですよ。3000万くらいですかね?

LARGE IRON: それ夢持たせようとしてる発言?

MC松島: いや現実問題ですね。ラップ以外にもいろいろな収入源あると思いますけど、3000万くらいはいるんじゃないですか?

LARGE IRON: え、何?東京でってこと?

MC松島: たぶん、はい。

LARGE IRON: 東京でってことね。そうなってくると想像つかないね。どうなんでしょうね。

MC松島: あと金持ちが周りにいると、なんかちょっと言っただけでお金貰える仕事とかあると思うんすよ。「これこっちにおいた方が良いよ」って言っただけでプロデューサーとしてお金が入ったりとか、上に行けば行くほどあると思うんで。3000万くらいはあると思いますけど、でも年収3000万って、もしかしてこれを見てる人のお父さんお母さんに居る可能性あるじゃないですか。そのお父さんお母さんがやってる仕事をやるべきだし。もっといっぱいあるじゃないですか大金稼ぐ為には。だからカネじゃないと思うんですよね。それかよほどビジネスセンスがないか。
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12. 面白い事がしたいです。

LARGE IRON: MC松島といえばtwitter上でいろいろ発信している人でさ。中でも最近は「面白い事したいです。」っていうつぶやきが目について。その「面白い事」って、例えばどういうことなの?

MC松島: あまり具体的ではないですけど、そのツイートを見て連絡をしてきた人が、たぶん面白いだろうと思ってつぶいてるだけですね。


LARGE IRON: なるほど。そのつぶやきを見て「MC松島さん、こんなことありますけどどうですか?」みたいな、ある意味リアクションを待ってると。

MC松島: はい。

LARGE IRON: なるほどね。話は尽きませんけども。今日はここまで。ありがとうございました~

MC松島: ありがとうございました。
目次
【書き起こし終わり】
突然な提案だったにも関わらずご協力頂いた LARGE IRON さん、MC松島 さん、本当にありがとうございます!ほぼ初めての書き起こしでしたが、お2人のトークのおかげで楽しく作業が出来ました!また、最後まで書き起こしにお付き合い頂いた方もありがとうございます!面白いことしましょう!

13. MC松島 vs LARGE IRON「FIVE WAYS」[2016]

最後に、今回文字起こしさせて頂いたお2人のスプリットEP「FIVE WAYS」をご紹介します。

「FIVE WAYS」は5種類のトラックを LARGE IRON と MC松島 が共有し、それぞれ別々に制作した5曲を持ち寄った計10曲をパッケージしたスプリットEPです。聴き比べて楽しむというコンセプトは冒頭でご紹介した「真髄」に通じる部分もありますね。下記リンクから購入可能です。

【特典アリ】MC松島 vs LARGE IRON – FIVE WAYS [CD]

真髄 / TOKYO TOGARI NEZUMI / 【最初のページから読む】

ライムハック: