矛先はKANDYTOWN?FLY BOY RECORDS? SKY-HI×SALU/「Purple Haze」を超個人的に解釈してみた

verse 2: SKY-HI → FLY BOY RECORDS?

FLY BOY RECORDS とは DJ TY-KOH、KOWICHI、YOUNG HASTLE、プロデューサーの ZOT on the WAVE らで構成されたインディレーベルです。
ショーウィンドウに粗悪な消耗品 それで酔っぱらえるなんてねぇ 本当 君たち正気?

これは FLY BOY RECORDS が2016年4月に発表した “毎日飲む酒” を指していると思われます。クラブミュージックとしての側面を持つヒップホップの特性上、お酒に関する曲は山ほどリリースされているはずなので他にも当てはまる曲もありそうですが、このリリックの続きも合わせて読み解くと “毎日飲む酒” 説がより深まります。

“ツマミにもならない君とは絡まない レプリカのスキルとそのドヤ顔 空回り”

これは FLY BOY RECORDS のなかで唯一 “毎日飲む酒” に参加していない KOWICHI のことを示唆しています。曲に参加していないことをお酒の “ツマミにもならない君” と表現していて、続く “レプリカのスキルとそのドヤ顔 空回り” は KOWICHI を知ってる方には説明するまでもないですが、楽曲のフック(サビ)部分のフロウ作りをすべてプロデューサーの ZOT on the WAVE に任せているにも関わらず何故か自信満々な態度を揶揄しているものと思われます。一時期は髪型やラップスタイルが KOHH を真似しているのでは?と一部のヘッズに言われていましたね(普通に聴いていれば完全に別物だとわかるはずですが)。

“もういい ぬるく冷めたコーヒー あとは元が炭酸でも 気の抜けた砂糖水”

リリックが前後して申し訳ないですが、ぬるく冷めたコーヒーは SALU が比喩で使った “紅茶” に対するアンサーです。どうせならもっと “Hot” な淹れたてコーヒー(ホットな曲)か、”Cool” なアイスコーヒー(イケてる曲)が飲みたい(聴きたい)ということでしょうか。

“元が炭酸でも 気の抜けた砂糖水” はヒップホップ特有の少し馬鹿っぽい内容のリリックでも、ライミングやフロウのバリエーションによって炭酸水を飲んだときのような爽快感が加わるから聴いていて楽しいわけで、ひどい内容のリリックにも関わらず目立った工夫もなければひねりもない気の抜けたラップは退屈で聴けたものではない、ということを表現しています。

個人的に最近の FLY BOY RECORDS の作る楽曲は、SKY-HI の言葉をそのまま借りるなら “気の抜けた砂糖水” のように、炭酸特有の爽快感が一切ない “ただ甘ったるいだけ” の飲み物です。まあ、それでも扱うトピックに興味関心がある中高生の層にはウケるのでしょうけど。少なくとも僕はそういう曲をカッコいいとは思えません。

仮に SKY-HI “Purple Haze” のディスの矛先が FLY BOY RECORDS だったとして、なぜそこまで言うのか?ちょっと言い過ぎじゃないの?と思わなくもなかったので、気になって調べたのですが実は KOWICHI も2014年に発表したアルバム「The Diner」に収録されている “W.A.C.K” という曲でシーンに対して物申していたんですよね。曲の中では “え?今日ハロウィンだっけ?メキシコっぽいあそこの彼 俗に言うアレは何々系?俺そういうの別に興味がねえ” と AKLO ?を揶揄していたり、ウェッサイ系という括りで自分たちの音楽を取り上げるメディアや、AK-69 や DS455 のモノマネラッパーをディスっていたり。(個人の感想として)少なくともこの頃の KOWICHI はまだギリギリ聴ける方だった思います。とはいえ、2年以上前のアルバムなのでいま聴くと若干古さを感じますけど。

で、2016年の KOWICHI、FLY BOY RECORDS(に限らず日本語ラップ全般)はどうだったでしょうか?ツイッターで人気の某同人漫画で取り上げられるようなネタとして描きやすい “面白そうな雰囲気の曲” はあったとしても、その中で本当にカッコいい曲はいくつあったでしょうか?

日本語ラップ村には少数派を気取る癖にシーンの中で話題になると流されて結局周りと同じものを聴きはじめたり、逆に聴かなくなったりする人が多いと思っているのですが(周りに流されるのはダサいと思うけど、結局はそれも含めて個人の趣味嗜好の話なのでそれはそれでいいとも思ってます)、純粋な疑問として本当に “それ” を良いと思って聴いている人は何人いるのでしょうか?

…とか他人に対して自分の価値観を押し付けようとすると、それは自分にもカルマとして返ってきます(いきなりスピリチュアルなこといってすいません)。KOWICHI に揶揄されていたラッパーの AKLO も “Bob Dylan” という曲で “俺だってやっぱなりたいのさ Better Human” と言っていましたが出来れば僕も良い人間でいたいですし、書いていて自分も同じように書かれたら嫌だな、と思ったので、これ以上余計なことは言うのはやめておきます。解説というか感想?に戻ります。

“どこ逃げても見てるぜ 鏡の向こう そいつに嘘ついたままで 笑えるならもう重症 行き当たりばったりで ボロボロのハリボテのハッタリ 俺は君の急所を射抜き この聖地守り抜くサラディーン”

これは結構グサッとくる人がいるリリックなんじゃないですかね…?ちなみに僕はグサッときました。聴くたびに背筋が伸びます。因みに、リリックに出てくるサラディーンと言えば RHYMESTER の ONCE AGAIN (Remix) で TWIGY も言っていましたね。そこも何か繋がりがあるのかな?なんて。

作品の中での表現方法は違えど、長く生き残っているラッパーは基本的にみんな思っていることは似ているような気がします。僕の好きなラッパーのひとり SEEDA も高校生RAP選手権のライブで、バトルに出場していた高校生ラッパーに向けて同様のメッセージを伝えていました。”ラッパーになる前に自分になれ” 。この言葉は KOWICHI も “W.A.C.K” の中で引用していました。要するに、流される前に自分を見つめ直せってことですよね。このときのライブ映像がYouTubeにあったので貼っておきます。ちなみにこのときのライブDJは DJ TY-KOH 。ナイスコンビです。

さて、いままで解説した “Purple Haze” SKY-HI バースにおける FLY BOY RECORDS ディス?ですが、アルバム5曲目 “ライトセイバー” のフレーズに繋がり?を発見したのでここに記しておきます。
“君の軽口 L→Rに斬る このセイバー Hit You”
「L→R」の表記は歌詞カードをチェックするまで気が付かなかったのですが、これを見て浮かんだのが、この写真です。

L→R KLOOZ,KEN THE 390,me,KOWICHI,DJ TY-KOH,Shiho Watanabe

SKY-HI(AAA日高光啓)さん(@skyhidaka)が投稿した写真 –


SKY-HI の右隣には KOWICHI、DJ TY-KOH が写っています。そしてキャプションには「L→R」と記されています。左から右に斬る、なら SKY-HI の右隣に写っている KOWICHI、DJ TY-KOH を斬るということで “Purple Haze” のリリックとも繋がっていますよね?どうでしょうか?単なるこじつけですかね?こうなると「君の軽口」も、彼らが楽曲作りに選ぶトピックの軽薄さを指しているように思えてきます。

と思ったので、引用RTで呟いてみたらご本人から説明して頂きました。これは左から右に一刀両断、とライトセイバーの Light の L を R にして、Right = 正す、という意味のようです。港に溢れるヒップホップと呼ばれているものの方向性を正すための言葉がアルバム全体に散りばめられているのは確かなようです。なにも KANDYTOWN や FLY BOY REDORDS だけに限った話ではないということですね。

例を挙げたらキリがないですが、その中の一例、アルバム6曲目 “H.Y.P.E.” で SKY-HI はこんなことを言っています。
“新時代の才能 あの大御所も太鼓判? ジャンルはボーダレスで高評価? 黙れよ エセ評論家”

これは “RGTO” の SALU のパンチライン “SALUくんには頑張って欲しい は?お前が頑張れエセ評論家” を受けたラインですね。このときの SALU も強烈なインパクトでしたが、今回の SKY-HI の方がより “エセ評論家” を強めに牽制してますね。このラインに関しては僕自身も、かなり思い当たる節がありまして…。己の書いた記事を読み返し素直に反省してます。だからといって「黙れ」と言われて黙るつもりもありません。今後も自分のペースで書きたいことを書きたいと思ったタイミングで書くつもりです。

他にも色々とシーンに言及している箇所がありますが、さすがに長く書きすぎたし探すのも疲れてきたし読んでくださる方も疲れると思うので(また別の記事で書こうと思います。そのときはまたよろしくお願いします)今回の解説はこの辺で。

総括

アルバムの1曲目 “Say Hello to My Minions” で、海外のクラブチームで活躍した元サッカー日本代表・中田英寿の名前と彼の代名詞であるキラーパスがシャウトされていますが、このアルバムも日本のヒップホップシーン全体へ向けた絶妙なキラーパスだと僕は思います。ここで言うヒップホップシーンはプレイヤーだけではありません。リスナーも含めたヒップホップに関わる全ての人間です。言うまでもなくパスを受けた人は “次” のプレーの選択を委ねられています。更にパスを繋いだり、ドリブルで仕掛けたり、ゴールを狙ってシュートを打ってみたり。思うようなパスが回ってこなかったり、攻め方に納得がいかなくて「そんなのヒップホップじゃねえ!」と思うならボールを奪うしかありません。僕自身は作品を聴いて「追いつけるかわからないけど強めのパスが来た!」と思ったので、必死にボールを追いかけ、ボールを一度キープしつつ、同じく日本のヒップホップを好きな人に向けてパスをしよう、という気持ちでこの文章を書いています。

そういえば Zeebra も呟いていましたね。「本気なら君もヒップホップ」って。多分そういうことだと思います。誰が悪いとか別にないですけど、自分も含めて本気な人が少なかったんじゃないかなって。

だからこそ優れた作品やイベント、企画、もしくは意見等に、それぞれのやり方で “アンサー” するべきですし、その行為が増えるにつれて日本のヒップホップもどんどん活気づいていくんじゃないかな、と勝手に思っています。仮にラッパーを応援するつもりで批評した結果、「お前が頑張れエセ評論家(by SALU “RGTO”)」と言われてしまっても、中身のない文章を書いて「黙れよエセ評論家(by SKY-HI / “H.Y.P.E.”)」と言われても、本当にヒップホップが好きなら黙っちゃ駄目だと思います。黙ったら終わりです。素直に受け止めるべきところは素直に受け止めて頑張るべきです。本当にヒップホップが好きなら、多少的外れだったとしても好き勝手に作品を発表したり、意見を表明していいはずです。本当にヒップホップが好きだったら。

あと、自分が気づいていることで周りがまだ気づいていないことは絶対にあるはずで。「楽しいこと」「面白いこと」そしてたまには「駄目なこと」も、、、みんなで持ち寄れば日本のヒップホップはもっと盛り上がるはず。持ち寄ったものをベースに、それぞれのやり方で、それぞれのゴールを目指すのが理想的な形だと思います。このブログメディアも更新ペースは非常に遅いですが、日本のヒップホップが好きな誰かの役に立てれば幸いです。

最後までお付き合い下さいましてありがとうございます。こちらからは以上です。

(この文章は、SKY-HI × SALU のアルバム「Say Hello to My Minions」、RealSoundに掲載された渡辺志保さんのコラム、MC松島のつぶやきから勝手にパスを受け取った気分で、アンサーのつもりで書きました。)

蛇足ですが、色々余計なことを書いてしまったので KANDYTOWN、FLY BOY RECORDS 関連の作品も一応紹介しておこうと思います。
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