矛先はKANDYTOWN?FLY BOY RECORDS? SKY-HI×SALU/「Purple Haze」を超個人的に解釈してみた

SKY-HI×SALU のアルバム「Say Hello to My Minions」が発売されて約1ヶ月が経ちました。2人ともかなり踏み込んだ内容をラップしているにもかかわらず、一部でしか話題になっていないことを考えると、エセ評論家の批評が足りないのではないかな?と思いました。どうせ書くなら今しかないかな、と思ったので久しぶりにブログ記事と向き合おうと思いました。

今回言いたいことはズバリ、タイトル通りなのですが、なぜそう思ったのか自分なりに掘り下げて解説していきたいと思います。

まずは各自、楽曲 “Purple Haze”(出来ればアルバム「Say Hello to My Minions」全体)を聴いてみてください。

解説に至るまで、馴染みのない方の為に予備知識の説明をしてるので、必要ない方はリンクを設置しておくので読み飛ばしてください。

  1. なぜディスるのか?
  2. verse 1: SALU
  3. verse 2: SKY-HI
  4. 総括
  5. おまけ: KANDYTOWN / FLY BOY RECORDS 関連作

一聴しただけで2人とも攻撃的なラップをしていることがわかるかと思います。ディスといえば聞こえは悪いですが、SALU と SKY-HI からのキツめのエールだと僕は捉えています。リリックを読み解いていくと日本語ラップという括りの中で特にヒップホップと呼ばれている人達に向けてラップしている内容が多いと思います。

なぜディスる?

馴染みのない方からしたら曲を使って他人をディスることは野蛮なイメージかもしれませんが、ヒップホップの世界では(に限らず一般社会でも学校や、会社、家庭において、先生、上司、配偶者本人がいないところで愚痴をこぼしてしまう場合、意外と口が悪くなってしまうと思います。とはいえ当然、ヒップホップではディスる意味や理由が異なりますが…)、ごく自然で当たり前の行為です。流行しているフリースタイルバトルを観ればわかりやすいと思いますが、切磋琢磨して競い合うことがエンターテイメントとして成立するのがヒップホップです。もちろん中にはバトルの勝ち負けと関係ないレベルまで自分を高める人もいれば、はじめからそうした土俵で勝負をしない人もいますが、基本的には相手より自分の方がすごいと思わせることが善しとされる文化なのは間違いありません。

フリースタイルバトルと違い、曲を使ったバトルには細かいルールはありません(そこがとっつきにくい部分なのかもしれませんが…)。基本原理は一緒で、聴いているリスナーに「すげー!カッコいい!」と思わせら勝ちです。また、お互いに敵対関係が認められる場合はヒップホップ用語でビーフ(BEEF)と呼びます。この記事で解説するケースでは今の段階では相応しいと思わないのでビーフという言葉は一度も使っていませんが、一応、なぜビーフと呼ぶのかを説明しておきますと昔、アメリカのハンバーガー専門店 ウェンディーズのCMで、自社のハンバーガーがいかに優れているかを示すために、ライバル関係にあるマクドナルドのビーフパティが小さいことを揶揄したセリフとして「where is beef?」と言ったことが由来だそうです。

もう一度、念のために言っておきますが今回のケースは今のところビーフではありません。

タイトルや本文に実名を出していますが、個人の解釈でリリックを解説することが目的なので、ビーフを期待して不必要に煽ることはなるべくしないように気をつけます。

サブカルブーム フリースタイルブーム でHIPHOP自体の季節は未だに冬

インタビューで SKY-HI が語っていましたが、”ここ最近カッコいいヒップホップの作品が出ていないことに危機感を感じていた” からこそアルバム「Say Hello to My Minions」のような作品が出来たといいます。この作品はシーンの中でアウトローを自称する2人が、カッコいいヒップホップを作りエンターテインしながら、日本のシーンに対して問題提起している作品です。個人的には2人をアウトローだとは思っていませんが、この事実だけでも胸が熱くなります。

ということでフリースタイルバトルのおもしろさが浸透した今こそ、曲でのバトルを入り口にカルチャーとしてのヒップホップに興味を持つ人が増えればいいな、という気持ちで解説します。

verse 1: SALU → KANDYTOWN?

この曲の SALU のバース全体を一聴した段階で「これは KANDYTOWN に向けてラップしてる?」と感じてしまいました。自分の感性に疑いを持ちつつも改めて歌詞カードを確認してみても、やはりそう思ってしまいました。まずはこの曲で一番耳に残るラインから解説します。

ほら いつも通り Oh 何杯目の紅茶 味しない薄い Flow だな

このラインでは誰かのフロウをそのまま真似したり使いまわされたトピックを扱うラッパーを、”薄い / 二番煎じ” の紅茶に例えています。これ自体は不特定多数に当てはまるディスですが、ここで注目したいのは比喩として “紅茶” が出てきた点です。実はこの “紅茶” が KANDYTOWN を示唆しています。理由はのちほど説明します。

ご存じの方には説明するまでもありませんが、KANDYTOWN とは東京世田谷のヒップホップ・クルー。川崎の BADHOP や、東京の YENTOWN と YENTOWN を抜けた KiLLa などと並び、今注目を浴びている若手クルーのひとつで、彼らは音楽だけではなくファッションを含めてクールで洗練されたイメージで人気があります。

KANDYTOWN のインタビューによると、名前の由来は、山下達郎の楽曲「CANDY」から(※これはあくまで一説です。メンバー全員が正確な由来を把握している訳ではないようです)で、キャンディ(Candy)の頭文字を C から K に変えているのは、彼らの地元・遊び場である喜多見、駒沢、経堂がすべて頭文字 K の街 = K-TOWN だから、それで KANDYTOWN を名乗っているようです。

日本でキャンディというと一般的に “飴” ですが(USでは砂糖を使用した甘いお菓子 [但し “粉” で作られるものを除く] 全般を CANDY というようです)一方で、綴りが KANDY のキャンディの場合は、スリランカのキャンディ地方、キャンディ地方で作られる “紅茶” を指します。

以上のことを踏まえて SALU のラップに出てきた “紅茶” はキャンディなのでは?と思った次第です。このバースはほぼ “紅茶” が言いたかっただけ、とラジオで SALU は発言していましたし、フロウでも強調されていて耳に残ります。リリックの内容から判断しても 紅茶=KANDYTOWN 説はあながち間違ってはいないと思っています。更にリリックを解説していきます。

クールなキャラが君の売りってか? なんの味もさ 別にしないじゃん

メンバーの中で特にリリックに当てはまると思ったのは IO です。2016年2月に発売された IO の1stアルバム「Soul Long」はやや過剰な宣伝が目につきました。彼の “ラップ” そのものよりもルックスやファッション、アルバムに集った豪華なトラック陣を売り文句に宣伝されていた気がします。作品そのものは周囲の期待に物怖じせず東京のオシャレな若者らしい落ち着いたテンションで余裕のあるラップをしていました。これは個人の感想ですが、良くも悪くもラップの内容が耳に残らないので、BGMとしてたまに聴こうかな?といった感じの作品です。SALU が指摘する “味がない” という表現にも当てはまりますね。

所属レーベルである BCDMG や業界から手厚くサポートを受けていた IO が置かれていた状況は、おそらく2012年3月の1stアルバム「In My Shoes」リリース時の SALU と似たような環境だったのでは?と想像できます。当時の SALU も新人とは思えないほどさまざまな媒体に登場し、落ち着いて受け答えしていたのがとても印象的でした。ファッションのセンスの良さやルックスが優れている点も似ています。

ただし、2人の大きな違いとして SALU の場合は、デビュー時から良くも悪くも “ラップ” そのものを賛否両論で評価されていたイメージがあります。その理由は2つあって、1つは、当時としてはまだ少数派で珍しかった日本語の発音を崩して英語風に聴こえるようなフロウだったこと、そしてもう1つは、プロデューサーの BACHLOGIC が、SALU のデモ音源を聴いてレーベルを立ち上げたという逸話が影響していたと思います。

自分以外の 誰かに支配を されて居ないと 胸を張れるかよ

このような注目されている状況を追い風に、自分自身の実力をシーンに見せつけたからこそ、そして反省を常にフィードバックして来たからこそ SALU は今でも第一線で活躍しているのだと思います。(これは SALU に限らず他のラッパー、他ジャンルで活躍しているアーティストもそうだと思います。)

だからこそ(勝手な想像ですが)同業者の厳しい目線でみて納得のいく実力を見せていない? IO 、並びに KANDYTOWN に物申したかったのではないでしょうか。彼らと SALU を比べるのは酷かもしれないですが、思わず言いたいことを言ってしまうほど、下の世代に期待しているのだと思います。これは悪意のあるディスではなく、かといって先輩から若手へのアドバイスでもなく、周囲から担がれる <期待の若手ラッパー> という立場を身をもって知っている人間として、 <これからの日本のヒップホップを盛り上げる仲間> として、愛情の裏返し的なディスをしたのでは?と勝手に捉えています。

俺の Swag なら君の毛布 君の心配すらありがた迷惑さ Boy

これは2012年の作品 “HEAT OVER HERE (REMIX)” に出てくる自身のパンチライン “ラボで震えているよ お前の Swag で暖めてくれよ” と意味が繋がっています。当時の SALU はレーベルメイトの AKLO と共に “SWAG系ラッパー” などと呼ばれていて、それを逆手に取ったような表現でした。

スワッグ(SWAG)とは自分自身や、自分自身のセンス、身の回りのものの魅力を人に自慢するときに使われる言葉で、ヒップホップ特有のセルフボースティング(自己賛美)と呼ばれる表現でよく使われる言葉です。 “HEAT OVER HERE (REMIX)” のときは、お前のボースティングで俺の気持ちをアツくしてくれ、というメッセージでしたが、今回の “Purple Haze” では逆に俺のボースティングでお前をアツくさせてやるぜ、という意味で使われていますね。

さらにマニアックに掘り下げると2012年当時、ツイッターで話題になっていたラップファンによるBBQサークル “Majikichi Crew(マジキチクルー)”のメンバーの方々を中心に SALU の “ラボで震えているよ お前の Swag で暖めてくれよ” のラインを受けて SWAG=毛布 と解釈するネタがごく狭い範囲で流行っていました。当時を知る人が聴けば今回の “俺の Swag なら 君の毛布” は、4年越しのアンサーとも受け取れるかもしれません(笑)
2012年のつぶやき↓



2016年のつぶやき↓

長くなってしまいましたが SALU のバースはこんなところでしょうか。

ちなみに比喩で使われた紅茶の <キャンディ> は飲みやすいマイルドな味が特徴で、少し味に物足りなさを感じる人にはハーブやスパイスを加えたアレンジティーがおすすめの紅茶らしいです。”Purple Haze” の辛口でスパイスの効いたリリックにぴったりの比喩表現ですよね。

そういう意味で KANDYTOWN メンバーのソロ作 YOUNG JUJU「juzzy 92’」はとても良いと思いました。当初の発売予定より2〜3ヶ月遅れてのリリースだったようですが、逆にタイミングも良かったのではないでしょうか。↓

蛇足ですが、他にも SALU は下の世代のラッパーに言及しています。それは6曲目 “H.Y.P.E.”。

みんな違ってみんないいなら そこに居ろよ 同じ言葉でも意味が違う俺とお前の外仕事

この曲で SALU は Creepy Nuts “みんなちがって、みんないい。” で R-指定 が演じた4人目のラッパー(SALUに似てる?)のバースに対して返答しています。

ただし、R-指定 はラジオ出演時に「”みんな〜” で演じたラッパーは自分がかつてなりたかった人たち」とディスを否定していましたし、SALU も映像を含めて作品内で自分が茶化されたことに対して、同じく作品で返しただけなので2人ともこれ以上やり合う理由はないと思います。

とはいえ、R-指定 vs SALU という組み合わせは、なかなか良いカードだと思いませんか?内容はともかく僕は字面だけで、ちょっとわくわくします。一応、先に仕掛けたのは R-指定 (Creepy Nuts) の方なので、SALU からアンサーが返ってきた以上、いちヘッズとしてなんらかのアクションを期待してしまいます。

続きまして SKY-HI のバースをこちらも個人的な解釈で解説していきたいと思います。こちらのバースも SKY-HI のラップが炸裂していて、とんでもないことになっています。
【次のページ】verse 2: SKY-HI → FLY BOY RECORDS?