【ライミング解析】SKY-HI「JACKIN 4 BEATS 2010」編

https://ilonna00.wixsite.com/flyersboard/forum/discussion-analysis/jackin-4-beats-2010-lyrics-tracklist ⬆︎耳コピした歌詞は2小節を1行にまとめてます。つぶやきでは背景解説っぽいことしたので、ここではライミングに注目して歌詞を分析してみます。本来なら新しい楽曲で解説すべきですが、日本語ラップのオーソドックスでスタンダードなスタイルに近かったし、せっかく耳コピもしたのでノリで分析してみることにしました。 馴染みのない方には若干マニアックな話かもしれませんが、ラップの基礎「ライミング」を理解するとSKY-HIのラップがより楽しめるかと思います。なんなら今まで興味すらなかった他のラッパーの曲も楽しく聴けるかもしれません。

まず最初にこの楽曲で個人的に一番好きなライン「ふざけたツラして俺はやるだけ 口塞げば負けだろ RAP GAME」のライミング解析を試みます。

①まず「あ行(母音:【A】」の配置が気持ちいい(特に後半)

fu-【ZA】-ke-【TA】-tsu-【RA】-shi-te-o-re-【WA】-【YA】-ru-【DA】-ke-ku-chi-fu-【SA】-ge-【BA】-【MA】-ke-【DA】-ro-【RAp】-(GAme)(ローマ字表記したら余計ややこしくなった疑惑…?)

②「ふざけた」~「口塞げば」は母音:【U-A-E-A】で踏んでる

「【ふざけた】(FU-ZA-KE-TA)」「【 ふさげば】(FU-SA-GE-BA)」と

③その後の「負けだろ」も含めると母音:【A-E-A】で踏んでる

「ふ【ざけた】(ZA-KE-TA)」「 ふ【さげば】(SA-GE-BA)」「【まけだ】(MA-KE-DA)」

④更に母音:【A-E】で変則的に踏んでる

「ふ【ざけ】た (ZA-KE)」「やる【だけ】(DA-KE)」「ふ【さげ】ば(SA-GE)」「【まけ】(MA-KE)」「【ラ(ップ)ゲ】ーム (RAp-Game)」

⑤そして母音:【U-A】で踏んでいて…

「【ふざ】けた (FU-ZA)」「【つら】(TSU-RA)」…「【ふさ】げば(FU-SA)」

⑥少し強引だけど母音:【A-U】で踏んでいる

「ふざけ【たつ】ら(TA-TSU)」「【やる】(YA-RU)」「【ラ(ッ)プ】(RAP-PU)」

(①は戦極MCバトル5章のDVDで晋平太が1文字でも音の溝にハマってれば「ライム」と言ってたので一応入れました。①〜⑥で羅列した中で音の気持ち良さと直接関係ない韻もあるかもだし、もしかしたら他にも隠れてるかも)

以上、文字で説明するとなんだか複雑で高度なライミングな気がしてきますが、シンプルに「口に出して気持ちいい」を探った結果だと思います。このように細かいライミングを散りばめた作詞は普段からラップをしてないと真似できないものかもしれません。正直、ここまで韻を踏んでるとは思ってなかったので驚きました。今度は比較的シンプルで文字としても説明しやすいライミングから順をおって羅列していきます。

【小節の後ろで母音を合わせるライミング「脚韻」①】

●「(~て)何年」「(~て)勘弁」(母音: (E) A-N-E-N 何年 NA-N-NE-N 勘弁 KA-N-BE-N)

●「ヤバい」「ダサい」「(してく)ださい」(母音: A-A-I やばいYA-BA-I ださい DA-SA-I)(+「~は居ない」(母音: A-I-A-I))

●「冷たい」「食えない」(母音: U-E-A-I)
●「馴れ合い」「変えない」(母音: A-E-A-I)
※上記二つのセットは語尾全て 母音: A-I でも踏んでる。

●「後輩」「将来」(母音: O-U-A-I 後輩 KO-U-HA-I 将来 SHO-U-RA-I)

●「飛ばす」「のはず」(母音:O-A-U 飛ばす TO-BA-SU のはず NO-HA-ZU)

●「いいじゃん」「キーマン」(母音: I-I-A-N いいじゃん I-I-JA-N キーマン KI-I-MA-N)

小節の後ろで母音を合わせるライミングは日本語ラップのオーソドックスなスタイル。誰でも真似し易いスタイルだが踏み方がダサいと駄洒落になってしまう為、そのぶんライミングのセンスは問われる。「〇〇と〇〇で踏める」のような韻の組み合わせ大喜利を日常で行うとボキャブラリーは増えるがそれによって特別ラップが上達することはない。あくまでライミングを成立させるための基礎練習。

【「脚韻」②(発音を省略するライミングの例)】

●「ヒーロー」「EGO(イィゴ)」(母音: I-I-O)その間に入っている「B-BOYS」も実は発音的に踏んでいる。

●「GET」「現状」は母音: E-O(響き的には「えっお」)で踏んでいる。「ゲット」はGE-TTOで、「現状」はGE-N-JO だが「ん」は撥音なのでライミング的には無視してOKな音(もちろん無視しなくてもOK)。

●「マイベスト」「相手」「無しね」(母音: A-I-E)耳コピしたらマイベストに聞こえたけどマイペースかもしれない。「マイベ(スト)」or「マイペ(ース)」どのみち踏んでる。

●「シンギング」「近隣」(母音: I-N-I-N この場合「ん」は無視せずライミングに活かしている。シンギングの「グ」は発音的に省略)

●「(I’M SO)BUSY」「(オリコン)一位」(母音 I-I-I ビジー BI-JI-I 一位 I-CHI-I)実は、その前に付いてる「SO」と「(オリ)コン」(「ん」は例によって省略)もセットで母音 O-I-I-I で踏んでる。

「ん」はライミングにおいて「う」として扱ったり、必要ない場合は無視できる特殊な音(「撥音(はつおん)」と呼ばれる)。「っ」(「促音(そくおん)」)や、伸ばす音「ー」(「長音符」)などは自然な範囲で足したり省略できたりする。最近では発音を「崩す」=日本語を英語風にする(少し前に流行した)ラップスタイルのほか、言葉の発音を「曲げる」=日常で使う自然な範囲で「っ」「ー」を足して省略したり伸ばしたり、あるいは「縮める」=前後の単語を繋げて発音する技もある。

【母音を完全に合わせることなく言葉の響きで踏んでいる?ライミング】

●「ふざけた(つら)」~「(くち)ふさげば」(最初にも分析したけど、雰囲気かと思いきや、実はきちんと踏んでる例)
●「タロソウルケンザ」「ダメレコメンバー」(前半は「タ」と「ダ」で「頭韻」的に踏んでいる。後半はケンザ/メンバー母音: E-N-A で踏んでいる)

上記2つは響きが似ている言葉で踏んでいる。「ライム」=韻だが、「ライミング」は文字面で母音を合わせることではなく音の響きを合わせることが最も重要なことだと私は考える。歌詞(文字面)で分かりやすく韻を踏まずにラップ(音)でリズムを生み出しているラッパーの代表格はSALU。SALUはShell Shocked (Remix) で韻を踏んでいない箇所も言葉のイントネーションを揃えることで巧みにライミングしている。「ライミング=母音を合わせること」だと思ってる人はSALUとKダブシャインとの対談記事を読んでほしい。

【連続でライミングしている箇所】

●「気はない」「しがらみ」「見習い」「暇ない」(母音: I-A-A-I)

●「(ローラー)スケート」「グレード」「プレイゾーン」(母音: U-E-I-O)

JACKIN’ 4 BEATS 2010の話から多少ズレるけど「気はない」「しがらみ」「見習い」「暇ない」のように分かりやすく畳み掛けるようなライミングは現在、即興のラップバトルなどで多用されている。技として分かりやすいので手っ取り早く観客を沸かせることが出来る上に、(ジャッジシステムによっては)勝敗を左右する審査員のポイントすら容易に稼ぐことが出来る。だが、韻を踏むことに集中するあまりビートにしっかり対応できているラッパーは少ない。切迫した状況の中で相手へのアンサーを返すことや、頭の中にストックしてある韻を引き出す訓練と並行して、母音に縛られることのない自由な発想のライミング、ビートアプローチの幅も広げてほしい(←謎の上から目線で申し訳ないけど、いちリスナーの意見)。

【連続でライミングしてる箇所②】

●「マグロみたく生み出す活路 俺なりの覚悟でかますアクション」

耳コピした結果なので正確な歌詞ではないかもしれないけど「マグロみたく生み出す活路」という表現は旧然とした日本語ラップ特有のちょいダサ韻として考えると味わい深い。「マグロ」…深読み好きリスナーを刺激する何かの隠喩?とか思ったけど、ただ単に韻に導かれただけの歌詞と捉えている(間違ってたらごめんなさい ※追記: 間違ってました)。因みに説明すると「マグロ」「活路」「覚悟」「アクション」で踏んでいる。(母音: A-U-O、マグロ MA-GU-RO、活路 KA-TSU-RO 覚悟 KA-KU-GO アクション A-KU-SHO-N「ん」は省略)普通に聴いてるときは気付かなかったけど文字にするとたくさん踏んでるのがわかる。(※「マグロ」について、ご本人からツイート解説していただきました。このような事情も知らず「ダサ韻」とか軽口書いてしまった自分を恥じます…。本当に申し訳ございませんでした)

【フロウで魅せる細かなライミング】

●「口塞げば負けだろRAP GAME」(記事の最初に幾つか解説したけどその中で個人的に一番気持ちいい母音: A-E-A で踏んでいる部分)

ラッパーは「ライミング」によってリズムを生み出す。リズムに抑揚を付けるなどしたラップの節回しが「フロウ」と呼ばれる。SKY-HIのフロウを聴けばどこで踏んでいるライミングか明確に分かるはずだ。ライミングはフロウとも密接に関わっている。実際に声に出して考えたり、頭のなかでフロウをイメージせずに、文字ベースで脚韻を考えていたらなかなか辿り着けないライミングかもしれない。同じフロウでラップしてみると気持ちいい。

【頭の子音 or 母音を合わせて踏む「頭韻」/子音を合わせる「子音踏み」】

●アイドルのスマイルよりAKLOのSWAG  S.L.A.C.K.にPUNPEEとくればRAU DEF [<A>-i-do-ru-no-(SU-<MA>-i-ru)-yo-ri-<A>-klo-no-(<SWA>-g)-(<SLA>-ck)-<PA>-n-pi-i-to-ku-re-ba-<RA>-u-de-f]

「SWAG」「S.L.A.C.K」(「スマイル」も頭韻で踏んでる)でライミングしていると同時に日本語の頭文字 <母音: A> に対してアクセントを付けて「頭韻」的に連続的に踏んでいる。「頭韻」とは本来、英単語の頭文字(子音)を合わせること。Smile、Swag、Slackは頭文字 S の頭韻。日本語ラップ界における頭韻(子音踏み)の印象的な使い手としては、漢 a.k.a. GAMIや呂布カルマが浮かぶ。

「母音」と「子音」を同時に踏むと同音異義語になる。どうやらそれを「子音踏み」と呼ぶ場合もあるらしい。しかし、「子音」のみ合っている場合でもイントネーションや発音、リズム次第でライミングは成立すると考えられる。ライミングを歌詞の中に忍ばせ、それをテクニカルなフロウで成立させるのが2010年代以降のラップミュージックに求められる標準的なスキルと言えるだろう。ただし、再現するのが難しいスタイルではあるので、挑戦する/しないラッパーの間で、スキルの格差が広まってしまっているのが現状である。

これだけは言えるが、「~文字踏み」と呼ばれるような文字数を競うだけのライミングはラップの音楽的スキルとはほとんど関係がない。それはあくまで日本語でライミングを成立させる基礎の部分がガラパゴス的に進化したもので、音楽というより言葉遊び・文学としての領域である。もちろんそれが日本語ラップを構成する大切な要素であることは認める。ただし、ラッパーとして表舞台に立つのであれば、「駄洒落」と言われない程度のリリシズム、音楽性も同時に身につけていてほしいところだ。(偉そうなこと言って申し訳ないが「じゃあテメーがやってみろ!」って意見は受け付けてない。)

【ラップミュージックを楽しもう】

これまで「ライミング」について書いたが、音楽には色々な楽しみ方がある。筆者(ライムハック)はラップの「歌詞」を深読みする楽しさが日本語のラップファンの間にもっと広がってほしいと願っている。更新頻度は少ないながらも、実際にそういう記事を書いたりしているので気になる方は是非そちらもどうぞ

また、そのように「歌詞を楽しみたい」と思うと同時に、あくまでラップミュージック(に限らず音楽)の本質は「音」だとも思っている。今回の記事ではラップの基礎的な部分「ライミング」を取り上げたが、例えば「ビート」や「フロウ」を楽しんだりするのと同時に、どの部分で「ライミング」しているか感覚的に理解することが出来るようになれば、今までよりも楽しくヒップホップを聴けるかもしれない。

ーーー以上、エセ評論家による「JACKIN’ 4 BEATS 2010」エセライミング分析でした。ここまでライミングに着目して音楽を聴いたり、歌詞を読んだり、それを文章として表現しようと試みたことなかったので新鮮で楽しかったです。今度また違う曲も分析してみようかな、と思ってます。今はまだSKY-HI以外のラップに興味持てないなぁ~というFLYERSさんもSKY-HIやAAAの楽曲の中からから気になるライミングを探してみてはいかがでしょうか?良いライミングが見つかったら是非教えて下さい^ ^ 最後までお付き合い頂きありがとうございました!良い音楽ライフを!